株を始めた。相場が気になって仕事が手につかない

(PIXTA=写真)

新約聖書には使徒パウロの書簡とその他の手紙が計15通収められている。右の言葉はパウロが2回目の伝道旅行をしたときに弟子として同行したティモテオに宛てた手紙にある一節。パウロはティモテオがよき宗教指導者になるための心構えを書き送っていた。

人は、金を増やそう、先立つものをつくろうとして投資やギャンブルにのめり込む。人生に「先立つもの」などなくて、今が人生の本番であるにもかかわらず、である。金があれば便利だし裕福に暮らせる。しかし金に心をとらわれすぎて金を増やすことばかりに時間を費やしてしまうと、自分の人生を生きられなくなる。

聖書は「金にとらわれる心」を戒めているのであって、金儲け自体を悪徳とはしていない。「神とマンモンとにともに仕えることはできぬ」(マテオによる福音書 第6章)という言葉もある。マンモンとはマネーのこと。神かマネーか、どちらかを自分の主人にしないと人生はうまくいかない、という意味である。誰彼なく愛を惜しみなく注ぐことを是とするのがキリスト教の本質であり、その信仰と金儲けを両立させるのはとても難しい。

ちなみにユダヤ人が金儲けがうまいとされるのは、彼らが幼い頃から「タルムード」と呼ばれる教典を繰り返し読んで育つからだ。タルムードはユダヤ教の聖職者によって口伝で伝えられてきた膨大な聖書解釈がまとめられた書物で、古代の賢人が考え抜いたあらゆる思考パターンの注釈が詰め込まれている。これを丹念に読み込むことで、思考が鍛えられて、柔らかで多面的な発想ができるようになる。金儲けの知恵も豊かになるのだ。

聖書の言葉

満足を知らずにさらに
より多くの富を欲しがる人は、
いざないと罠に落ちるものだ。
彼らは愚かで恥知らずな
欲望に膝を折り、
いつのまにか堕落し、
ついには滅亡の道を歩む。
すべて悪を生む根は1つ。
いつも金にとらわれる心である。

ティモテオへの第一の手紙 第6章

※フェデリコ・バルバロ訳『聖書』に準拠

作家 白取春彦
青森県青森市生まれ。ベルリン自由大学で哲学・宗教・文学を学ぶ。哲学と宗教に関する解説書の明快さには定評がある。著書に『超訳聖書の言葉』『超訳 ニーチェの言葉』『この一冊で「聖書」がわかる!』などがある。
(構成=小川 剛 撮影=小原孝博 写真=PIXTA)
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