どこかのタイミングで誰かがやらなければ
「まず、退路を断つために、開設50周年記念イベントの予定を早々に入れてしまいました。もう絶対にやらなあかんよ、ということです。」
津田さんの「退路を断つ」という言葉を聞いて思い出したのは、以前、鳥井信宏サントリー(株)社長にインタビューをした時のことである。
鳥井社長は、「リーダーが自ら掲げた数値目標について、ほんの一瞬でも『ちょっと無理かな』と疑ってしまったら、それは瞬時に組織の末端まで伝わってしまう。目標が未達に終わる原因はそこにある」とおっしゃった。つまり、津田さんが断ったのは、部下の退路ではなく自身の退路だったのではないか、というのが筆者の見立てである。
「もうひとつ、難しいことではあるけれど、未来のサントリーを変えるんだと支店のみんなに伝えました。メーカーのポジションが向上すると業務用の営業もやりやすくなるし、とても大きな意味があることなのですが、どこかのタイミングで誰かがそれをやらなければ、未来は永遠に変わりません。それをいまわれわれがやるんだ、未来のサントリーはいまの私たちにしか変えられないんだ、本気で爪痕を残そうと何度も言い続けました」
「ザ・プレミアム・モルツ」の快進撃然り、ハイボール・プロモーションも然り、サントリーという会社は、こうと決めたら一気呵成に突き進むのを得意とする集団だ。
津田さんは目標となる数字をはじき出すと支店の壁にそれを張り出し、持ち前の率先垂範によってセールス・プロモーションの推進を徹底した。
かくて2018年、静岡支社は設立50周年という節目の年にライバル会社を上回るほどの実績を残し、エリアでのポジションを向上させるという、大きな快挙を成し遂げることになったのである。
「佐治敬三(2代目社長)の言う『へこたれず、あきらめず、しつこく』の精神で、支店が一丸となってやれた結果だと思います」
初めてビールの営業に出た頃のあの悔しさを忘れていない
いま、サントリーHD(株)で営業部門初の女性役員として、津田さんは新たな挑戦の日々を送っている。新しい仕事を前にビビる気持ちは今でもあるが、これまでのように限られたエリアで短期的に結果を出すだけではなく、グローバルな、そして長期的な視野を持って会社を牽引していくのが役員の務めだと自覚している。
「私、初めてビールの営業に出た時、まったく相手にしてもらえなかったあの悔しさを忘れていないんです。だから、絶対にサントリーのビールをNO.1にしてみせます」
2026年の酒税法の改正を目前に控えて、いまサントリーのビールは「右肩上がりの第3位」にある。若年人口が減少する反面でインバウンド需要が急増しており、客層も消費行動も大きく変化をしている。変化の時代だからこそ、戦略次第で勝機はあると津田さんは言う。
「出口はひとつ、ビールNO.1です」
その日が来るまで、津田さんは攻めて、詰めて、攻め続けるのだろう。
好きな言葉:意志あるところに道は拓ける。夢大きく。
趣味:ゴルフ
ストレス発散:ジムでトレーニング