オーストラリアを足掛かりに世界一を目指す
「世界で拡大基調にあるRTDカテゴリーで、2030年に世界No.1を目指す」。サントリーホールディングス(HD)の新浪剛史社長は、2月に表明した。RTD(レディー・トゥー・ドリンク)とは、缶(あるいは瓶)の栓をあけてすぐに飲める酒を指し、日本では缶チューハイが代表選手だ。新浪社長は「各国の(人々の)舌に合わせた味をつくる技術力が重要」と強調する。
そのサントリーが抱く“RTD世界制覇の野望”は、サントリーRTDカンパニーの仙波匠社長の双肩にかかっている、といえよう。
――RTD世界No.1を目指すにあたり、具体的には2020年に10億ドルだったRTD事業の売り上げを、30年には3倍の30億ドルにすると、示しています(23年は約14億ドル)。どこの国の市場を優先して攻略するのでしょうか?
優先国は4つ。アメリカ、日本、オーストラリア、そして中国。この4カ国の中では、オーストラリアはシェアトップです。引き続き市場をリードしていく。アメリカ、中国はこれから本格的に展開するが、アメリカは世界最大市場なので一番力を入れていきます。
――戦い方は国によって変えるのでしょうか?
日本とオーストラリアでは、きちんと粗利をとった戦いになる。アメリカでは、われわれは挑戦者なので、まずはシェアを追っていく。同じくこれから本格的に参入していく中国も量を追う。
レモンをそのまま搾るサワーを好むのは日本人だけ
日本とオーストラリアは、成熟市場であり、そう大きくは伸びない。アメリカと中国の市場は、これから高成長を見込めます。地域によって、利益とシェアとのバランスをとっていく。
グローバル展開の戦略商品は、「-196」です。
――気になるのは商品の中味。国別に「-196」の味は変えているのですか。
変えています。その国の嗜好に合う商品にしている。パッケージデザインも国によって変えています。
もっとも、ベース酒となる蒸溜酒のウオッカや原料酒は、すべて大阪工場でつくっている。レモンなどの果実をまるごとマイナス196℃で瞬間凍結し、パウダー状に粉砕してウオッカに浸漬する「-196℃製法」も、すべての製品に採用している。つまり、基本骨格は一緒。
骨格は同じでも国別に味を変えているのです。日本の-196と比べると、甘くしているものもある。国によっては現地の委託先工場にて、中味調整、調合、パッケージングして製品にしています。
――日本人が好む味わいが、世界で通用するわけではないのですね。
そうです。日本の居酒屋でよくある、レモンをそのまま搾ってスピリッツに注いで飲む、というスタイルは、外国人には好まれない傾向がある。レモンの酸っぱさが強すぎるから。
ターゲットはZ世代を中心とする若者です。オーストラリアでは20~30代の若年層男性を中心に支持されており、「低カロリーで飲みやすい」と評判です。