▼村井瑞枝さんからのアドバイス
スキルの習得というと大ごとのような気がしますが、目の前の問題に対処するだけなら、1から体系的に身につける必要はありません。たとえば仕事で会計の知識が必要になったとしても、4~5冊読めば、最低限の知識は身につきます。後は仕事で試しながら磨いていけばいいのですから、普段はスキルの勉強に時間を割かなくてもいいのです。
一方、教養は短期集中で身につけることが困難です。物事を深く考えたり本質を見抜く力は、本を数冊読んだからといって身につくものではありません。これらの能力は、さまざまな分野の情報に触れ、自分の頭で考えることを地道に続けながら少しずつ鍛えられるものです。普段、時間を割く必要があるのは、スキルよりもこちらのほうでしょう。
何の役に立つのかわからないものを勉強するのは無駄だという意見もあるでしょう。じつは私も同じで、大学で美術史を履修していたときは「これって社会に出ても使えないよね」と思っていました。でも、実際にビジネスの最前線に身を置いていると、大学時代の学びがヒントになることも少なくないのです。
美術史も含め歴史を学ぶということは、人間の行動パターンや考え方を学ぶことでもあります。ビジネスの現場では数字やデータだけでは推し量れない消費者の行動を目の当たりにすることがありますが、歴史を学んでいると、それに対して一歩踏み込んだ観察や検討ができるように思います。
これはほんの一例。教養を深めるということは、人間を知ることにほかなりません。直ちに役立たなくても、じわじわと自分の厚みになって、後から振り返ったときに何かの助けになっている。教養とは、そういうものだと思います。
辻調理師専門学校にて調理師免許を取得後、米ブラウン大学、伊ボローニャ大学にてアートを学ぶ。帰国後、JPモルガン、ボストン コンサルティング グループを経て現職。訳書に『ウォールストリート・ジャーナル式 図解表現のルール』がある。