とすると、スーパーマーケットまで行かなくても、近くのコンビニでほしい商品がほしい分量だけ手に入れば、そこで買い物をすませようと考えるのは自然の流れです。
日本人の生活パターンが変わってきた今だからこそ、コンビニを「近くて便利」というコンセプトで定義づけることが重要ではないか。全国各地で店舗の経営相談にあたるオペレーション・フィールド・カウンセラー(通称OFC)たちに、そう語ったのが始まりでした。
もちろん、コンビニエンスストアという言葉自体、便利な店という意味です。別に「近くて便利」などといわなくてもいいのではないかと思われるかもしれません。ただ、便利という言葉はあまりにも広い意味を持ち、なんにでもあてはまってしまいます。
また、われわれ日本人のなかに、「コンビニといえば、ああいう店だ」という固定したイメージができあがっているところもあります。そのイメージのなかにいる限り、マンネリ化するだけです。
そこで、コンビニエンスを「近くて便利」といい換えることで、セブン-イレブンでまたなにか新しいことが始まるのではないかという感覚を顧客に持ってもらう。店舗のオーナーさんたちにも、自分たちが目指す方向性を示すことができます。セブン-イレブンといえば、「近くて便利」が“枕詞”になるようにする。それが大事だと考えたのです。
――セブン-イレブンはこの取り組みを開始すると、「近くて便利」という新しいコンセプトを訴求するテレビCMの放映も開始した。ポップシンガーの財津和夫が率いたチューリップの往年の名曲「青春の影」がBGMに流れ、人々の暮らしのなかにセブン-イレブンが溶け込む様を映したCMは好評を博し、商品そのものを訴求したローソンやファミリーマートのCMとは方向性の違いを感じさせたのだった。
鈴木敏文(すずき・としふみ)
1932年生まれ。中央大学卒。62年イトーヨーカ堂入社、73年ヨークセブン(現セブン-イレブン・ジャパン)設立。92年より現職。