中途半端なネタでは話題にならない
最近のデパートで販売される、特に女性向けの福袋は、売り場で中身を提示している場合が多くなっています。本来、福袋は年初めの運試しという意味もありましたが、中身を先に見せることで「こんなものは欲しくなかった」と顧客を落胆させるリスクを避けることができるからです。しかし、若い男性が主な客層となる秋葉原では、中身がまったく分からず、購入して初めて分かるというものがほとんどです。これは、中身が見えないほうが「ワクワク感」を演出することができるからです。一般に子供向けの食玩でも、女の子向けは中身が分かるようになっていて、男の子向けは中身が分からないようになっているものが多い。どうやら女性の方が手堅く現実的で、男性の方が夢を求めてリスクをとる傾向があるのかも知れません。
秋葉原のさまざまな福袋が演出する「ワクワク感」は、単に顧客の注目を集めるだけではありません。秋葉原に訪れる人たちは、若い男性が中心で新しい物好きである特性があるので、スマートフォンの保有率が高い。そのような人たちに「ワクワク感」を与えることは、話題のネタを提供することでもあり、放っておいても彼らは twitter などのソーシャルメディアを通して店舗の情報を自ら発信してくれます。そうすると、特に広告を出さなくても、秋葉原から発信された情報を得た潜在的な顧客が、実際に新たな顧客として秋葉原にやってくるのです。新宿や池袋など他の地域でも魅力的な商品はあるのですが、パソコンや携帯の画面を見ながら暇を持て余している人にとっては、話題のネタが散らばっている秋葉原に訪れる理由も出てきます。「ワクワク感」が新しい顧客との縁を起こしてくれるのですから、店舗にとってもまさに福袋といえるかもしれません。
一見ふざけているようにも見える秋葉原の福袋ですが、実は話題のネタ作りに真剣で必死なのです。秋葉原での顧客獲得競争は他に類を見ないほど熾烈です。秋葉原に集まる顧客は、特定分野には「通の目」を持つマニアが多いので、中途半端なネタでは「ワクワク感」を与えられません。特に初売りは稼ぎ時でありながら、一つ間違えると他店に顧客を奪われる可能性もあるのですから、いかに顧客に向けて「ワクワク感」を演出するか、そして、まだ見ぬ潜在的な顧客にそれを伝えてもらうかは、それぞれの店舗にとって重要な戦術となるのです。
「ワクワク感」で縁を起こす戦術は、私たちにも日常で応用できそうです。仕事の現場や家庭でも、身近な人に「ワクワク感」を提供することで、まずは自分への興味を引きつけられるでしょう。そして、ワクワク感を得た人たちは自ら良い評価を広めてくれれば、新たな出会いやつながりをもたらしてくれるかもしれません。
(次回のお題は「メイドカフェ」。4月2日[火]更新予定)