嫌われることを過剰に恐れる必要はない
――きぬた歯科の看板は、その派手さでたびたび話題を集めています。見る人の心に与えるインパクトは強いものの、「胡散臭い」などネガティブなイメージがついてしまう怖さや不安はありませんでしたか?
きぬた:それは本当、いろんな人に言われましたね。でも、そもそも、病院は誠実でキレイなイメージを保つべきだって誰が決めたのかって話ですよ。まずはとにかく人の頭の中にこびりつくことを重視した結果があの看板ですから、「胡散臭く思われるのが怖い」なんて言ってられませんでしたね。……でも実はね、それで妻と離婚しかけたんですよ。看板離婚。
――看板離婚……ですか?
きぬた:看板のおかげできぬた歯科の認知度が徐々に上がりつつあったある日、妻が「一体いつまで看板やる気なの?」って聞いてきたんです。血相を変えて。なんでも、看板のせいで知り合いや友達からなんとなく煙たがられている空気を感じるって言うんですよ。
でも、看板は僕にとって、人生を賭けた最後の一手だったわけです。「インプラント報道」の影響で一時大きく減った売上が、看板のおかげでようやく少しずつ増えてきていた。僕は自分と家族の命の次に大事なものはお金だと思っているので、世間体のために看板をやめるというのはどうしても受け入れられなかったんです。ただ僕の顔を出してるだけだし、看板で直接人を傷つけているわけでもないですしね。
――たしかに。ただ、看板に関してはおそらく、近隣住民から「景観を損ねる」といったクレームが寄せられることもありますよね。
きぬた:「マンションの窓を開けたら毎朝お前の顔が見える。不快だから撤去しろ」ってメールはこれまで何回ももらってますよ。でも僕はただ法に従って看板を出しているだけです。それに、個人的には、あんまり厳しく看板を規制しようとするのは、ただでさえ金回りの悪い日本のビジネスをより一層萎縮させるだけだと思いますけどね。
――なるほど。一般的に、人から漠然と嫌われたり敬遠されたりすることを怖いと感じる人は多いと思うのですが、きぬた先生はあまり気になりませんか?
きぬた:気になったこともありますよ。ありますけど、気にしたところで、自分がピンチになった時に「いままで気にしてくれてありがとう」と他人が助けてくれるわけじゃないですよね。だから、他人は他人、それより自分の財布のほうが大事だ、と呪文のように毎日唱えてますね、僕は。
だいたい、人からおおっぴらに嫌われるような行動なんてそもそも思いつかなくないですか? 両肩にデカいスピーカーを置いてウワンウワン音を鳴らしながら歩いたら嫌われると思うけど、あえてそんなことしませんよね?