「長期収載品の選定療養化」

今年10月から始まった「長期収載品の選定療養化」という制度をご存じでしょうか(※6)。これは患者さんが薬局で先発医薬品を選んだ場合、後発医薬品との差額の一部を支払わなくてはいけないというもの。ほとんど周知されることなく開始され、病院やクリニックの医師にとっても、薬局の薬剤師にとってもあまりに急な決定でした。

医薬品の開発には、莫大な時間とお金がかかるもの。ですから一定期間は開発して特許を持つ製薬会社のみ製造することができます。これが先発医薬品です。しかし特許が切れたら、他の製薬会社も同じ有効成分の薬を作ることが可能になります。こうして作られるのが後発医薬品で、開発費用が先発品ほどかかっていませんから安価です。厚労省は医療費の増加を抑えるため、後発医薬品を使うよう誘導しているのです。

具体的には、後発医薬品が存在している場合、先発医薬品を使う正当な理由があると医師が判断しない限り、特別な料金(差額の4分の1+消費税)を支払うことになります。例えば「ヒルドイド」という血行を促進して皮膚を保護する先発医薬品の有効成分はヘパリン類似物質で、複数の会社が後発医薬品を出しています。そのため、「ヘパリン類似物質の軟膏(後発医薬品)」ではなく、「ヒルドイド軟膏(先発医薬品)」を患者さんが指定した場合、医療証のある小児でも自己負担が生じることがあるのです。

※6 厚生労働省「後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について

写真=iStock.com/ferrantraite
※写真はイメージです

薬価を上げて不足を解消すべき

先発医薬品の多くが大会社の製造ラインで大量に作られるのに比べ、後発医薬品の多くは国内180社以上の小規模な会社で多品目かつ少数ずつ作られるのが特徴です。後発医薬品は同じラインで製造計画を立てて作られるので、急な増産はできません。特定の薬を作りすぎて残ると経営を圧迫しますが、同じ有効成分の薬を作る会社同士が生産量を相談して調整することは独占禁止法に引っかかる危険性があるためできません。

以上のような理由で特定の薬を多く作るインセンティブがありません。先に述べたように日本の後発医薬品を作る会社は海外に比べて規模が小さいため、さほどコストカットできないといわれています。にもかかわらず薬価は低く設定され、2〜3割の薬が価格よりも製造コストのほうが高いという状態だったため、2023年に不採算の医薬品1100品目の価格が一時的に是正されました。ただし、これは臨時措置なので、この先また下がらないという保証はありません。

こういった状態では、国内の製薬会社は設備や人材育成に投資したり、効率を高めるために合併するなどの努力をしづらいでしょう。また海外の後発医薬品の会社も日本に投資したり進出したりはしないと思います。先発医薬品の会社も、有用な薬を作ってもジェネリックが奨励されるうえ、先発医薬品が選ばれにくい制度があるため、開発等へ力を入れづらいでしょう。

「医療費の増大を抑えなくてはならない」という厚労省をはじめ、国としての方針は理解できます。しかし、医療費抑制のために国民が不健康のままでいるのを容認してはいけません。そもそも薬が不足して適切に治療できないと、経済活動にも支障をきたして税収が減るでしょう。医療費が減ったところで、所得税や法人税まで減ってしまえば本末転倒で、国や国民にとってよくありません。薬価を適切に設定して、薬不足が起こらないようにお願いしたいと思います。

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