厚労省も対策はとっているが
日本がこういった状態になったのは2020年末から。厚生労働省は早くも2020年から「医療用医薬品の安定確保に関する関係者会議」を始め、その後も開催しています。2022年からは日本製薬団体連合会と共にどの薬が供給不足になっているかを調査し、2023年4月からは毎月発表しているのです。
また、2022年からは「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」で問題を分析し、「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」を作り、安定供給ができるような対策を取っています。
他にも厚労省は、製薬会社に増産を要請したり、薬の偏在のためにこうなっているという考えなのか医療機関や薬局に一度に購入する量を制限するよう指導したりしています。薬の原材料を中国、インドなど海外に頼っていることも一因なので、製薬会社に原材料の国内調達も指示しています。輸入に頼ると為替相場の影響を強く受けますし、急な供給減少や価格高騰もあり得るからです。しかし、国内で原材料を見つけ、国内に製造工場を作り、薬が増産されるまではまだまだ時間がかかります。
薬価を下げすぎたことが大きな原因
こうした薬不足の要因は複合的ですが、薬価を下げすぎたことが大きいでしょう。日本では医療機関が保険診療内の診察・検査・治療などの医療行為を行なった際に支払われる対価――つまり保険点数が決まっているので、どこで医療を受けてもほぼ同じ値段になります。同様に処方薬も国が価格を決めているので、製薬会社や薬局が自由に値段を変えることはできません。
そうして現在は毎年、薬価の改定が行われていて、グラフのように年々安くなっているのです。後発医薬品(ジェネリック医薬品)は一錠あたり6円以下という飴よりも安い値段で薬を作ることを求められ、不採算を理由にした撤退も許されないようです(※4、5)。
薬価が下がり続けても、製薬会社は従業員にこれまで通りに賃金を支払わなくてはいけませんし、工場の維持にもお金がかかりますから、増産に積極的になれません。最近では光熱費や原材料費も上がり、物価が上昇しているのに、厚労省がさらに薬価を下げるかもしれないという話が伝わってきます。その上、国は製薬会社を含む従業員の賃金を上げるようにいっています。その原資が、いったいどこから出てくると思っているのでしょうか。
※4 Business Journal「ジェネリック薬メーカー社員『自分は使わない』4割超が不適切に製造と判明」
※5 毎日新聞「ジェネリックなど3000品目超が供給停滞 業界が抱える特殊事情」