無理難題を受け入れる「度量」が広がる

少し前に、出版社の小学館から「『ドラえもん』をテーマに本を執筆してほしい」という依頼を受けました。小学館にとって『ドラえもん』は看板コンテンツであり、藤子プロの許諾も得た大型企画だといいます。

「どんな企画ですか?」と尋ねたところ、編集者はこう答えました。

「ドラえもんの名言を100個選んで、コメントする企画なんです」

なるほど、『ドラえもん』を隅々まで読めば、100個くらいは名言が見つかりそうです。それをピックアップして解説を加えることなら難しくはなさそうです。

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ところが、編集者の話には続きがありました。

「ドラえもんに出てくる名言に関連した、偉人の名言をセットにして紹介する本にしたいんです」

編集者が求めていたのは、『ドラえもん』に出てくる一つの名言と、例えば『論語』の言葉をセットにして解説するという内容です。でも、『論語』から名言をとり続けるわけにはいかないので、原則として100人の偉人の名言を集める必要があります。

そうなると、話は全然変わってきます。私は、まず『ドラえもん』を全巻読み込み、名言にたくさんのフセンを貼りつけました。そして、編集チームのメンバーとアイデア出しの場を設け、偉人の名言と結びつける作業をひたすら繰り返しました。苦心の末に、ドラえもんの名言と偉人の名言を100セット集めることができたのです。

たいていのむちゃぶりは、工夫しだいで乗り越えることができます。一度むちゃぶりをクリアすると、無理難題を受け入れる度量ができてきます。その経験値は何物にも代えがたいものがあります。むちゃぶりは貴重なチャンスだと思うべきなのです。

依頼を受けるとスイッチが入り、アイデアが止まらない

むちゃぶりの重要性は、オファーを受けることの重要性に通じます。

私には、何かのオファーを受けた瞬間から、気づきが始まるという感覚があります。オファーを受けるかどうかを検討している時点で、すでにアイデア出しの作業が始まり、発想が止まらなくなります。だから、依頼を断るのがもったいなくなってしまうのです。

気づきを発動させる上で、報酬はそれほど重要ではありません。例えば、私が2つの会社から同じようなインタビュー取材を受けたとしましょう。B社のインタビュー料は、A社と比較して高額です。この場合、B社で話す内容のほうが特別クオリティが高くなるわけではありません。

報酬の多寡よりも、オファーの有無のほうが明らかに気づきのスイッチには大きな影響力を持っていると感じています。

少し前に、私は『私のバカせまい史』(フジテレビ系)という番組から出演のオファーを受けました。『私のバカせまい史』は、今まで誰も調べたことのない“バカせまい歴史”を徹底研究し、その成果を独自の考察で発表するバラエティ番組。子どもの自由研究を大人版にしたようなイメージでしょうか。