「こけても骨折しなくなった」82歳男性

たとえば、次のような患者さんがいました。

コウヘイさん(仮名)は現在82歳。75歳だった7年前から当院の外来に通院されています。

初診時のYAMは60%。YAM70%未満は骨粗しょう症ですので、治療が必要になります。

※YAM(Young Adult Mean)とは「若年成人平均値」の意味で、20~44歳までの健康女性の骨密度の平均値がYAM値として用いられます。骨密度測定検査では、このYAMを指標に「現在の骨量はどの程度あるのか?」をパーセンテージで示し、骨の状態について診断を下します。(同年代の平均値との比較ではありません)骨粗しょう症と判断する目安は70%未満です。

両側の膝に、関節症による重度の疼痛があり、ご本人がもう一度痛みを感じずに歩けるようになりたいと強く希望されていたこともあって両側同時の人工膝関節手術を行いました。手術時から「骨吸収抑制剤」を開始し、7年継続、外来経過観察中です。

この7年間で数度転倒されましたが、新たな骨折はありません。また、当院では人工関節術後の患者さんには、骨密度、骨代謝マーカー、骨質マーカー(ペントシジン、ホモシステイン)などを測定し、総合的に骨粗しょう症や、骨のサビ(老化)を調べ、術後の経過をよくするための最先端の骨粗しょう症治療を行っているため、人工関節と骨との固着にも問題は発生していません。

生涯歩き続けるためにも、早めの予防が必要

7年間の服薬治療によって、腰椎のYAMの値は60%から72%へ増加しました。

骨粗しょう症治療の一番の目的は、寝たきりなどにつながる骨折を予防することです。コウヘイさんは治療を開始した当時、両膝の痛みに加えて、YAMの値が非常に低く、いつ「いつのまにか骨折」してもおかしくない状況にありました。

これまでの7年間で複数回転倒していますが、もし治療を始めていなかったら、おそらく骨折していたことでしょう。82歳の現在も、新規の骨折をすることなく、元気に歩けていることを、ご本人もご家族も喜んでいます。

斎藤充『100年骨』(サンマーク出版)

巷では、人工関節の手術後5年や10年もしたら耐用年数がきて皆、再手術しなくてはならないという都市伝説が広まっています。それは正しくありません。人工関節は、その周囲を取り囲む骨粗鬆症治療をすれば生涯にわたり再手術することなく可能性が高いことが多くの研究からわかってきました。骨のケアこそが、人工関節の運命も左右するのです。

当院では、そのような問題は発生していませんし、こうした緩みを防止するために、最先端の骨の評価による骨粗しょう症治療を同時に行っています。

骨粗しょう症は、「生涯にわたり予防と治療をしていれば、骨はいつまでも若いまま、腰が曲がることもなく、元気で長生きできる」、つまり、うまくお付き合いを続けられる病気です。私たち整形外科医を、「100年元気骨」のパートナーとして、予防と治療を前向きに取り組んでいただけたらと思っています。

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