ロシアと北朝鮮、韓国の核武装化への懸念

一方、北朝鮮に関して、トランプ2.0は新しいアプローチを模索していくようだ。

北朝鮮の核開発やICBM(大陸間弾道ミサイル)の進展を危険視するトランプ氏は、交渉を通じて問題解決を目指すだろうと多くの専門家は見ている。しかし、ロシアと北朝鮮が軍事技術の交換を深めている現状は、日本にとっても深刻な問題となる。

北朝鮮はウクライナ戦争でロシアに軍需物資や、最大10万人の派兵を送る見返りに、ロシアから軍事技術の支援を受けているからだ。

ウォルツ氏が2019年の米朝首脳会談時、金正恩総書記を「暴君」と呼び、「北朝鮮の非核化が実現するとは考えられず、今後もそう信じることはない」と語ったのを振り返ると、トランプ2.0と北朝鮮の交渉は難航しそうだ。

ウォルツ氏の見解に対し、ナギ教授も「北朝鮮の核武装化を解くのは、非常に難しい」と見ている。韓国では核武装化の議論が活発となっているが、日本は朝鮮半島の核武装化にどう対応するのか注視が必要だ。

トランプ1.0政権以来、法の支配に基づく国際秩序はますます複雑になっている。

ロシアによるウクライナ侵攻と北朝鮮のロシア支援は、世界各地で起こる紛争のすべてが日本にも影響することを物語る。だが、ロシアと中国が関与している北朝鮮との調整に、トランプ2.0がどのように取り組むのかは現状、不透明だ。

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インドの台頭は…?

名目GDPは、2025年に日本を抜き、世界第5位となる見通しのインド。近年インドと中国との関係は、国境紛争や経済的競争から緊張が続いている。アメリカが対中強硬策をとるなかで、インドと日本の立ち位置はどのようになるのか――。

立命館大学国際関係学部准教授のアスタ・チャダ博士は、トランプ2.0の主な特徴は「同盟国やパートナー国には取引的な外交をし、ライバル国には強硬な姿勢をとることだ」という。

チャダ博士は「インドと日本は、インド太平洋において共通の脅威である中国に対抗するために、アメリカの同盟国としての役割を強化する」との見解も示している。両国とも、インド太平洋地域における安全保障や経済発展支援において、より大きな責任を担う態勢を整えているという。

こうした日印の思惑がある中、アメリカはどう動くのか。前出・佐藤教授は、米印の関係の複雑性を強調する。

「インドの財界の結びつきが強いウォルツの知るインドとは、異なるインドにアメリカは戸惑うことになるかもしれない」

佐藤教授曰く、インドはグローバルサウス(南半球に位置するアジアやアフリカ、中南米などの新興国や途上国の総称)の視点で「米国への過剰依存を避ける独自の外交戦略を展開しており、アメリカの対中強硬策を最大限支援するかどうかは疑わしい」という。世界への影響力を持つインドの動向からも目が離せない。

後編では、トランプ2.0のウクライナ戦争やイスラエル政策、移民問題、LGBTQ+政策について分析する。

【取材協力】(登場順)
長尾賢博士
現在、ハドソン研究所研究員。学習院大学で学士、修士、博士取得。博士論文「インドの軍事戦略」をミネルヴァ書房より出版した。自衛隊、外務省での勤務経験がある。学習院大学、青山学院大学、駒澤大学で教鞭をとる傍ら、海洋政策研究財団、米・戦略国際問題研究所(CSIS)、東京財団で研究員を務め、2017年12月より現職。他に13の肩書を有し、平和安全保障研究所研究委員でもある。英語論文150、海外メディアでのコメントは800以上。

スティーブン・ナギ博士
国際基督教大学教養学部政治学科の教授。日本国際問題研究所(JIIA)客員研究者。近著に『“Middle Power Cyber Security Cooperation in the Indo-Pacific: An Analysis Through the Lens of Neo-Middle Power Diplomacy;『Indo-PacificConnector? Japan’s Role in Bridging ASEAN and the Quad Indo-Pacific Connector? Japan’s Role in Bridging ASEAN and the Quad』(The Journal of East Asian Affairs. Institute for National Security Strategies (, Vol. 37., Issue 1)などがある。

佐藤洋一郎博士
立命館アジア太平洋大学(APU)教授。多数の学術書や論文を発表。BBC、アルジャジーラ、朝日新聞、日経アジアレビューなど、世界中のメディアに登場している。米国国防総省アジア太平洋安全保障研究センターで8年以上教鞭をとり、ユソフ・イサハク東南アジア研究所の客員上級研究員も務めた。慶應義塾大学法学部卒業、サウスカロライナ大学国際学修士、ハワイ大学政治学博士。近著に『Alliances in Asia and Europe: The Evolving Indo-Pacific Strategic Context and Inter-Regional Alignments』(Routledge、2023年)、『Handbook of Indo-Pacific Studies (Indo-Pacific in Context)』(Routledge India、2023年)などがある。

アスタ・チャダ博士
立命館大学(京都)の国際関係学准教授。立命館アジア太平洋大学の招聘講師も務める。 また、国際研究学会(ISA)の宗教とIR部門(REL)のコミュニケーション・オフィサー、民主化推進センターの研究員、ハワイ太平洋フォーラムの女性平和安全保障(WPS)フェローでもある。 インドと日本の関係、南アジアの安全保障、インド太平洋問題、世界政治における宗教について執筆している。著書に『Faith and Politics in South Asia』(Routledge、2024年)がある。

バーバラ・クラティウク博士
ポーランド・ヴィスワ大学助教授。インド、日本、韓国の大学で客員研究員。ワルシャワ大学、フライブルクのアルベルト・ルートヴィヒ大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで学び、ベルリンとシンガポールのポーランド大使館やさまざまなメディアでの勤務経験を経て植民地主義、権力、アジアと米国および欧州の複雑な関係について執筆する。ポーランドのメディアでの東アジアの政治情勢についてコメントも多数あり、ポーランドおよびEUにおける東アジアおよび東南アジアへの理解を深める活動も行っている。編著に『Handbook of Indo-Pacific Studies (Indo-Pacific in Context) 』(Routledge India、2023年)があり、現在同著のUSとベトナム関係について執筆中。

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