進化した「またトラ」政権
2016年11月に初めて大統領に当選した当初、ドナルド・トランプ氏は自身の勝利を予想していなかった。そのため政府運営に必要な人事や政策の準備が整っておらず、内閣や政府運営に対する知識が不足していた。
しかし、今回2度目就任を前に、内閣人事の重要性を深く理解し、より戦略的な布陣を取りつつある。この変化でいかなる影響が日本に想定できるのか。
新たな経済・政治戦争に突入する米中
波乱必至なのは、国際的な政治・経済関係だ。
「アメリカは過去約250年、ライバルとなるドイツ、日本、ソ連などを徹底的に競争で打ち破ってきた」
そう語るのは、ハドソン研究所研究員の長尾賢博士だ。トランプ2.0は、中国を「最重要な競争相手」と捉えるバイデン政権路線を維持すると博士は見ているが「トランプ政権はバイデン政権やオバマ政権と異なり、外交スタイルが大きく異なる」と説明する。
オバマ政権やバイデン政権はTPP(環太平洋パートナーシップ協定)やIPEF(インド太平洋経済枠組み)など多国間の枠組みを活用し、「民主主義vs権威主義」といったイデオロギーを掲げて米中対立に対処した。
一方で、同博士は「トランプ政権は2国間外交を好み、脅しと取引(ディール)を重視する」と指摘する。脅しの例として、「NATO加盟国で国防費を十分負担しない場合にはロシアの好きにさせる」といった過激な発言や「高関税の導入」などが挙げられるという。
トランプ2.0でマルコ・ルビオ上院議員を国務長官に指名したのは、中国に対する強硬姿勢を一層強めるためだ。中国共産党を厳しく批判したことで中国本土への渡航が禁止されているルビオ氏の任命は、「米中戦略的対立の本気度を象徴する」と日本国際問題研究所客員研究員のスティーブン・ナギ国際基督教大学教授も同意するところだ。
さらに、立命館アジア太平洋大学(APU)アジア太平洋学部の佐藤洋一郎教授は「トランプ政権がタカ派の人事で固められれば、中国には対話可能な仲介役がいなくなる」と分析する。
佐藤教授によれば、ブッシュ政権やトランプ1.0では財務長官が対中政策でハト派的な立場を担うことが多かったが、これは中国による大量の米国債保有という弱みに起因しているという。
「財務省長官の発言力が弱い場合、中国とアメリカの政権間のつながりはさらに細くなる」と同教授は考察する。トランプは先日、財務省長官に投資家のスコット・ベッセント氏を指名したが、この人事も米中関係に大きな影響を与えるだろう。