「営業や販促はお客さんに近いところで仕事をしている。その立場を生かして商品づくりができたら面白い」

「遺言書キット」の開発を支えた上司たち。東口広治ECM部部長(右)と福田健司CMD事業部マーケティング企画部VMDグループ・グループリーダー(左)。

何ごとにも積極果敢な東口はこうまくしたてた。2007年春のことである。

その時点では、商品化の当てなどあるはずもない。本来なら「餅は餅屋」で、大阪が企画した新商品をどうやって売り込むかを考えるのが、東口や岸田が属するコンシューママーケティング事業部の仕事である。

だが、民間企業は役所とは違う。前例のない仕事でも社会通念上許され、収益化が望めるなら、やりたい者が手を挙げてやればいい。そのことを彼らは、現場の皮膚感覚によってよく理解していたのである。

さっそく部内から15人ほどのメンバーが集められ、週1回の企画会議が始まった。

「毎週10本ずつ企画を出すのがノルマでした。最初はまったくの素人ですから、ノウハウ本が教えるとおり、身近な人たちから『何か困っていることはないですか?』と1つひとつニーズを掘り起こしていました」

メンバーに選ばれた岸田はこう振り返る。

だが、「これは」という企画はなかなか思いつかない。ネタ出しに疲れ、ふと気がついたのが、自分の中に眠っていた次のような経験だった。