コクヨ会長
黒田章裕さん

1949年、大阪府生まれ。甲陽学院高校卒業後、慶應義塾大学経済学部を卒業。祖父はコクヨ創業者の黒田善太郎。72年コクヨ入社。77年に取締役、常務、専務、代表取締役副社長を経て、89年に39歳で代表取締役社長に就任。26年間社長を務め、2015年3月代表取締役会長に。東京ファイル・バインダー協会会長、大阪紙製品工業会会長などを務める。趣味はゴルフ、映画鑑賞、クラシック音楽鑑賞。
 

2015年の春に会長になり、今は会長職を手探りで学ぶ日々です。社長時代は会社の経営でも、私生活でも、他人に気兼ねすることはなかったのですが、今はそうはいかない。経営は新社長に任せ、人のためになる仕事を探しています。

時間に余裕ができ、友人やお客様と食事に行く機会が増えました。行くお店は、基本的に“馴染み”の店。父や祖父の代から知っている店や、知人の紹介で通うようになった店。北海道から九州まで、全国に20店から30店ぐらい。馴染みでなくては予約を取るのが難しい店もある。そういう店はまず数カ月先の予約を入れ、それから誰をお連れするのかを考えます。

馴染みの店では、ただ「ごちそうさま」という店とは違い、繋がりができていくんですね。僕が馴染みの店に知人を連れていき、その人がたいそう気に入ったら、ご主人や女将さんに紹介する。すると、後日その店を訪れたときに、「黒田さん、ご紹介ありがとうございました。○○様にあれから来ていただいています」という話になる。お店にも喜んでいただけるわけです。「ああ、お連れしてよかったな」と思えるのですよ。

食べものの思い出といえば幼少の頃にこんなことがありました。当時、黒田家は質素で、誕生日には決まって、お澄ましに煮抜きの玉子(ゆで玉子)が一つ入って出てきた。両親や兄弟の玉子は半分。卵が貴重だった時代で、それがお祝いの印だった。そのときとても幸せな気分になったことを今もよく覚えています。

「琥珀宮」には2012年のオープンから通っています。もともと東麻布にあった「富麗華」で食べた中国料理が忘れられず、姉妹店のこちらに来るようになりました。特にはじめて食べた上海蟹は衝撃でした。丁寧に中身を取り出された甲羅に、綺麗に身が詰められて出てきて「これ何? こんな上海蟹ってあるの?」って。オーナーの徐富造さんの「お客様を喜ばせたい」という思いが料理に溢れているのです。

大阪の北新地にある「ほうば」は、韓国料理の域をはるかに超えていることに驚いた。辛いとかニンニクが効いているなどのイメージを持たれる方もいるようですが、それとはまったく違う。目で見て味わって、雰囲気でも味わうことができる。このお店は高級食材をふんだんに使い、想像を何段も飛び越えてくる。盛り付けの美しさは圧巻です。