差がつく習慣【6】記憶力が落ちたと感じるときは

●築山先生からのアドバイス

メールで何度もやりとりしている間柄なのに、いざ会って話そうとすると、相手の名前が思い出せない。こんな失敗を何度か経験して、「最近どうも物忘れが激しくなった」と嘆いている人は多いかもしれません。しかし、物忘れがひどくなったと決めつけるのは早計。実際は思い出す以前に、最初から記憶していないだけの場合が多いのです。

情報は、出力することを前提にして入力しないと使える記憶になりません。例えば漠然と街を歩いたあとで「何を見かけたか」と質問されても、簡単に思い出せないものです。しかし、同じ風景を見ていても、あらかじめ質問されることがわかっていれば、意識して情報を入力するため記憶に残りやすくなる。

これは人の名前や会議の内容も同じ。文字を目で追ったり話を聞いたりするだけでは記憶に残りにくく、書いたり話したりという出力を意識してようやく使える記憶になります。メールで何度も読んでいるはずの名前が思い出せないのも、そもそも口に出して発音していないからなのです。

記憶力を高めるには、出力の機会をなるべく多くつくることが大切です。ただ、実はそれ以前の問題も大きい。現代人は、発話する能力自体が衰えています。かつて発話の能力を維持するために必要な発話量について研究したことがあるのですが、その境界線は1日約1000語(約1000秒)でした。しかし、少ない人は1日数百語程度。これでは発話の能力そのものが低下して、出力の機会があってもうまく話せないはずです。

そこでおすすめしているのが新聞コラムの音読です。例えば「天声人語」は600字強。これを音読すれば、普段数百語しか話さない人も、発話能力をキープするのに最低限の発話量は確保できます。コラムを読めば話のネタが増えるので、より積極的に会話の機会もつくれ、二重の意味で効果的です。

このようにして出力の機会を増やしていけば、情報を入力するときにも「あの場面で話そう」という意識ができ、それが記憶の強化にもつながります。