日常会話を通じて「数の理解」を深めていく
私たち大人は、2個のミカンを差し出すとき、ごく当たり前のように2という「数字」と、「に」という「読み方」と、2個に見合う「量」という3つの概念を頭の中で同時に認識することができる。だから、「ミカンを2個取って」と言われたら、何も考えずに2つのミカンを差し出すことができるが、数の理解ができていない幼児には、まだその感覚がつかめていない。幼児期に大事なのは、日常会話を通じて、こうした数の理解を深めていくことだ。
それを十分にしないまま、早くから計算ドリルをやらせても、「ただ計算という作業をしているだけ」で、まったく意味がない。むしろ、それをすることによって親の小言が増えるのであれば、百害あって一利なしだ。
私たちの身のまわりは、様々な数であふれている。しかし、家族間の会話は、目の前にモノがあると「あれ取って」「これがほしい」と、指示語で済んでしまいがちだ。それでも、言葉は通じるし、その方がラクだからだ。だが、子どもに算数的な力を付けたいと望むのであれば、これらの数字を言葉にして伝えることを意識してみてほしい。ここでひと言数字を加えるかどうかが、その後の未来を変えていく。
「絵本の読み聞かせ」の経験が中学受験で生きてくる
中学受験の算数入試には文章題がたくさん出題される。しかし、計算は得意だけれど、文章題は苦手という子は少なくない。これに対して読解力の不足が指摘されるが、私はそれ以前に想像力の不足が原因だと考えている。例えば、速さの問題で、「Aくんは時速何kmで歩きましたか?」と聞いているのに、平気で「時速40km」なんて答えを書く子がいる。それも一人や二人じゃない。結構な数の子が、なんの疑いもなくそう書いているのだ。これこそまさに、想像力の欠陥だ。
では、想像力はどのようにして養っていけばいいか――?
一番の方法は、自分で実際に体験してみることだ。ただ、すべてを体験させるのは難しいので、疑似体験をさせてみよう。おすすめは絵本の読み聞かせだ。絵本というのは、絵と少量の文字で場面が説明され、それが変わることで物語が展開していく。この「場面の変化」が、子どもの想像力を高めていく。
絵本に親しんだ子は、こういう話のときは、こういう展開になりやすい。こういう出来事が起こると、次はこんなことが起きるといったように、情景を想像したり、思い浮かべられたりできるようになってくる。この「情景が思い浮かべられるか」が算数の文章題ではとても重要で、この部分が欠如してしまうと、正しい答えを導くことができない。「算数なのに、絵本?」と驚いた人もいるかもしれないが、絵本こそ、算数にもっとも有効な知育玩具だと感じている。