「社員の給料2倍」は一時、奏功したが…

それは安田氏の回顧録を読めばわかります。多額の借り入れは人件費への支払いへ使われていました。人件費、つまり社員の給料を業界平均の2倍近くにまで上げ、優秀な人材を囲い込む作戦を取りました。この作戦は功を奏し、優秀な若手人材の獲得に成功、ワイキューブ急成長の原動力になっていきます。

しかし、経営の大原則として、人件費のような恒常的な支払い資金を、借り入れで賄うことはあってはなりません。経営を存続させるためには、売上から売上原価を引いた粗利益(売上総利益)の範囲内で賄えるだけの人件費しか企業は払うことはできない仕組みになっています。粗利で賄えない固定費の支払いを行えば必然的に赤字に転落します。

安田氏としては、人件費を投資とみなし、雇った人員が利潤を稼いでくれば、短期的赤字になったとしても、その利潤で借入は返済していけるとの思惑だったのかもしれません。

しかし、通常固定資産への投資とは違い、人材への投資は、①毎月必ず発生する固定費である②本当に稼げるか否かは雇ってみなければわからない③途中退社リスクもある、など経営にとってはデメリットが大きく、ワイキューブも厳しい財務状態に陥ったことは容易に想像がつきます。

この状態でも、金融機関が先々の事業拡大を期待して資金援助をしてくれている間は存続できますが、リーマンショックが起き、金融機関が引き気味になった瞬間にこの会社の命運は尽きました。

ワイキューブのように人件費の支払いを借り入れで賄うのは言語道断ですが、適切な投資を行うためだとしても、過度な借り入れ依存は企業の存続を危うくします。事業を成長拡大していくため借り入れは必要ですが、総資産に対して自己資本の比率は30%以上を維持できるようにしておく必要があります。

リストラをせざるを得ず、求心力を失った

消える企業の共通点③ 理念なき経営

ワイキューブは、もともと給料を相場より高めに設定することで人材を集めた企業でした。そこには目的が存在しません。

企業は営利を追求するのは当然であり、社員がより高い報酬を求めるのも当然です。ですが、金の切れ目が縁の切れ目。金で集まった組織は金がなくなれば崩壊します。

ワイキューブも業績が低迷したことで、リストラを進めます。これが結果的に組織の求心力低下を招きました。必然的にサービスの質が低下し、売上回復も見込めなくなりました。

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