激戦州のカギを握るヒスパニック票を失うか

ただ今回はそれが度を超していた。ゲストの1人で人気コメディアン、トニー・ヒンチクリフ氏の発言が、瞬時に大炎上したのである。

「ラティーノ(ヒスパニック系)は子作りが大好き」「プエルトリコは海に浮かぶゴミ溜め」などと、ヒスパニックに対するきつい人種差別ジョークを連発した。郊外の共和党エリアではなく、マンハッタンのど真ん中のマディソンスクエアガーデンで、である。これまでとは違い、世界各国から報道陣も集まっている。さらにニューヨーク市の人口の3割がヒスパニックだということを、慢心した陣営は忘れてしまっていたのだろうか?

共和党関係者の中には、トランプ氏自身がこれまでもひどい女性蔑視や人種差別発言を連発してきたのだから、今回も大丈夫だろうという人もいるが、ほとんどの関係者は戦々恐々としている。なぜなら当落を分ける激戦州での勝利にヒスパニック票は欠かせないからだ。特に拮抗しているペンシルバニア州のヒスパニック人口は9%、わずかにリードしているジョージア州は11%と少なくない数がいる。

このコメントがニュースやSNSを通じて大炎上したのと同時に、歌手のバッド・バニー、ジェニファー・ロペスなど、これまで沈黙していたヒスパニック系のスーパースターが次々にハリス支持を表明した。

これが自信過剰気味だったトランプ陣営を切り崩す、オクトーバーサプライズになる可能性も否定できない。

撮影=Masahiro Kashiwabara
ヒスパニック系を敵に回したトランプ陣営は激戦州を制することができるのか

「中流以下の経済対策、女性の権利」最後の訴え

一方ハリス候補は、投票日を1週間後に控えた10月29日、ワシントンDCで演説を行った。

場所はホワイトハウス前の広場エリプスで、マディソンスクエアガーデンのトランプ集会の4倍近い、7万5000人が集まったと報じられている。

実はこの場所は、2021年1月6日の議会襲撃直前に、トランプ氏が集会を開いたいわくつきの場所でもある。トランプ氏がいかにアメリカを分断させ、それが大規模な暴力にまで発展したかということを、思い出させるための演出でもあった。またホワイトハウスを背景にすることで、未来のハリス新大統領のイメージを、可視化する意図もあったはずだ。

その目的はある程度果たせたと言っていいだろう。

演説は、中流以下と子供のいる家庭への税負担を減らし、大企業の便乗値上げをやめさせる。女性の中絶の権利を守り、安全な国境と有効な移民対策を法制化するなど、政策的にはこれまで打ち出してきたことの念押しとなった。

一方で注目すべきは、自身とトランプ氏との違いを改めて明白に示したことだろう。トランプ氏が「自分を支持する者以外のアメリカ人は敵であり、軍隊の出動もありうる」と言い続けているのに対し、ハリス氏は「自分は民主党も共和党も関係なく、あらゆるアメリカ人のために働く。分断したアメリカを再びひとつにする」と強く訴えた。

当たり前のように聞こえるかもしれないが、分断に疲れきったアメリカ人、特に若者には、この言葉が強く響いたはずだ。