ターゲットにしたのは「無消費」

電気座布団からウォークマンに至るまで、自社が開発したあらゆる商品、そして自社が創造した市場を通して、ソニーは一般の日本人消費者の不便や苦痛をターゲットとした、大きな利益の見込めるビジネスモデルをつくり上げた。

さらに、成功するための必要に迫られて、関連する多くの職も生み出した。新たな職が生まれるたびに日本の発展に必要な資源がそこに集結し、ソニーは無自覚のうちに国の繁栄に貢献した。

クレイトン・クリステンセン『イノベーションの経済学』(ハーパーコリンズ・ジャパン)

私が最近、ソニー製品を目にするたびに感じるのはイノベーションのクールさだけではない。そこには何か強力で永続的なもの──日本を世界上位の富裕国に押し上げたプロセスそのものが存在する。

日本には優れた家電メーカーがほかにもあるが、日本のイノベーションの代名詞と言えばやはりソニーの名が真っ先に挙がる。戦争で荒廃した日本から、乏しい資金で、政府からの援助を受けることなく、友人同士だった2人の男が無消費(※)をターゲットとして新たな市場を創造し、世界一流の企業を築き上げた。

(※編註 「無消費(ノン・コンサンプション)」はクリステンセン氏が『ジョブ理論』の中で提唱した考え方。無消費とは「何らかの『制約』によって製品やサービスが使われていない」ことを指す。)

ただし、ソニーの例は日本の経済成長の原動力となったイノベーションの成功物語のほんの一例にすぎない。家電メーカー以外の業界にも数々の輝かしい例がある。

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