「陰謀論者」はあなたのすぐ近くにもいる

――Qアノンは、2021年1月6日の連邦議会襲撃事件後も活発なムーブメント(運動)を続けているのでしょうか。

(コミュニティとしての)動き自体はもうあまり活発ではないとも言えるが、Qアノンというムーブメントは今も陰謀論の主流を占めている。彼らは、政府の指導者やメディア、企業が結託して自分たちを抑圧し、トランプ前大統領の収監を目論んでいる、といったことを唱えている。そうした説の多くはQアノン以前からあったが、Qアノンが陰謀論をメジャーにしたことで、人気が出た。

そして今や、Qアノン風の考え方は現代保守政治の根幹を成していると言ってもいい。たとえ、そうした考え方を拡散している人々がQアノンについて何も知らなかったとしても、だ。

――アメリカ人の半数が何らかの陰謀論を信じているそうですね。

そうだ。今や誰もが、コロナ禍をめぐる陰謀論にハマった人を1人くらい知っているだろう。パンデミック(世界的大流行)は人為的に引き起こされたものであり、新型コロナウイルスのワクチンは私たちを殺すようにできている、といった陰謀論だ。

「ディープステート(影の国家)」という謎の巨大権力組織がトランプ前大統領の復権を阻もうとしている、という説もある。こうした陰謀論にのめり込んでいる人々が誰の周りにも何人かいるのではないか。

トランプが利用した支持者の「本能」

――Qアノン信者らは「沈黙し、嫌われ、忘れられていた多数派」であるがゆえに、自分たちを代弁し、自分たちの手に権力を取り戻してくれると信じるトランプ氏を「英雄と仰いだ」と書いていますね(第3章)。そして、Qアノン信者と共和党主流派は「切っても切れない関係」になったと。

ワシントンD.C.で開催されたCPAC 2011で講演するドナルド・トランプ氏(写真=Gage Skidmore/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons

トランプ前大統領は、いろいろな意味で、保守主義のあり方を逆転させたと言える。保守主義は、「国民への不干渉や小さな政府、個人が自分で問題を解決する」という主張が特徴的だった。だが、トランプ氏は「すべてを解決できるのは自分だけだ」とアピールし、2016年に大統領の座をつかんだ。こうした考え方は「救世主」を彷彿させる。これはまさに、1980年代から90年代にかけて保守派が反対していた概念だ。

しかし、保守派の多くは、トランプ氏が資金や支持者を呼び込める存在であることに気づいた。彼こそが共和党に権力をもたらすことができる人物だ、と。トランプ氏が共和党を掌握するようになったのは、そのためだ。今や共和党員が政界で活躍するには、トランプ氏や彼の支持者らの恩寵を受けなければならない。

彼が今回も敗北を喫すればトランプ熱は収まり、支持者離れが起こるだろうが、勝てば、まったく別の展開になる。

いずれにせよ、目下のところ、彼は共和党を完全に牛耳っている。トランプ氏は支持者らの「本能」を利用し、党を掌握した。つまり、支持者らが口に出すのをためらっていた、非常に人種差別的な言葉や奇妙なことを自ら率先して言うことで、「最悪の自分をさらけ出してもいいのだ」という許可を人々に与えたのだ。