関西企業で使われていた「おいあくま」

さて、私が就職した住友銀行は住友グループであり、関西の会社です。新人研修の際の、役員の発言が印象に残っています。それは「おいあくま」です。怒るな、威張るな、焦るな、腐るな、負けるなの頭文字を並べているのです。

その時の記憶をたどれば、登壇した役員は、「社会人は人間力が大事であり、それはこの項目を全て守れば培うことができる」と語っていました。

確かに謙虚な人であれば人を怒ったりもしませんし、威張りもせず、またあせらず腐らず、着実に努力をすれば実力が上がるでしょう。困難に負けない人間も立派です。

この言葉は住友銀行で長い間頭取をした堀田庄三氏の言葉という説もありますし、阪急でよくいわれた言葉という説もあります。いずれにせよ、関西企業で使われていた言葉のようです。

いまの若い世代が、この言葉を聞いたことがあるのか確認できていないのですが、関西で育った中間管理職や役員クラスには、この言葉で自分を律してきた人が多いはずです。

関東は論破、関西は対話が目的

さて、京都大学総長を務め、ゴリラの研究で世界的に有名な山極壽一やまぎわじゅいち先生は東京生まれ、関西育ちであり、両方の文化をよく知っている方です。そのため、私も東西文化論を考える際には、山極先生のお言葉をいつもみています。

山極先生は、「関東はディベート文化、関西はダイアログ文化」とおっしゃいます。

ディベートは相手を論破することが目的なので、議論の最初と最後で自分の考えを変えてはいけません。それに対してダイアログでは話の最初と最後で全く別の結論に至ると指摘しています。

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確かに東京では正しいことを追求する空気がありますが、関西では馬鹿みたいな雑談から「ひょうたんから駒」のように新しいものが生まれるといった感じです。

これに関して、小説家の柴崎友香さんが面白いことを指摘していました。それは「大阪弁は会話を続けるためにある言葉」であることです。

大阪の人の会話は、意味の伝達よりも続けること自体に意味があります。大勢の人が集まって生活する中で潤滑油の役割がありました。柴崎氏によると、しゃべり続けている間、自分は怪しくないということを具現化しているといっていました。

逆に東京では意味を素早く伝えることにとても意識がいっているように思います。それは東京大学と京都大学の入試問題にも表れています。東京大学の入試は文章を読んで的確に手短にまとめる能力が要求されます。