お客さんが来ない…突き付けられた現実

2010年4月、ついに佐嘉平川屋「嬉野店」がオープン。ところが、ひどい時には1日数人、売り上げが1万円に届かない日もあった。

「人はいったいどこにいるんだろう……」

店のテラス席に座り、車の通らない道を眺めては、途方に暮れた。

さらに、悲劇は続く。嬉野店のオープンに必死になるあまり、手薄になっていた卸事業も不調をきたした。入社以降初めて2年連続の減収となった。

それでももう、後戻りはできない。

「なんとしても売り上げを作らなければ……」。この状況を打開しようと、平川さんは新商品の開発に乗り出す。

筆者撮影
取材当日の店内の様子

地道な商品開発

2011年から2012年にかけて、「豆乳もち」「濃い豆腐」「豆腐どん」の3つの新商品が生まれた。

古くから佐賀で親しまれてきた「ごどうふ」の製法をヒントに作られた「豆乳もち」は、平日の嬉野店で100個を売り上げる店一番の人気商品となった。

筆者撮影
さまざまな豆腐商品が並ぶ店内。シンプルでお洒落なパッケージが目を引く

一般的な豆腐の大豆固形成分が10%前後と言われるなか、17%の豆乳で作られる「濃い豆腐」は、「限界まで豆乳を濃くして作ったらどんな豆腐になるのだろう」との疑問から開発された商品だ。

写真提供=平川さん
新商品として打ち出した「濃い豆腐」

販売できる形にするまでに3年の時間と労力を要したが、2019年の全国豆腐品評会の九州・沖縄地区予選では最優秀賞に選出され、豆腐の製造技術が認められた。

豆腐店に生まれ育った平川さんが、子どもの頃から自分で作って食べていた「豆腐どん」も、そのまま商品になった。なめらかな充填豆腐を熱々のご飯の上に乗せて、鰹節やネギ、みょうがなどの薬味をのせて食べる。豆腐店の暮らしのなかから、商品が生まれた。

筆者撮影
豆腐どん。豆腐どんぶりの略で、ご飯の上に豆腐を乗せて醤油などをかけたシンプルな食べ物
写真提供=平川さん
豆腐どん。特製のタレをかけて食べる