本店が開業すると、自治体の視察や多数のメディアが取材に訪れ、地域活性化への取り組みとしても注目されている。しかし、本人の動機はいたってシンプルだ。
「地元に恩返しをしたい気持ちはもちろんありますが、それよりも今は自分が好きなことをやっています。人を喜ばせるためにやってるわけじゃなくて、自分が楽しいからやってるんです。国の仕事はスケール感の大きさという点でやりがいはありましたが、『ありがとう』と言ってもらえることはまずありませんでした。豆腐屋では、『こんなに美味しいものを作ってくれてありがとう』と感謝してもらうことができ、対価まで払ってくれるんです。こんなに幸せなことはないですよね」
佐賀が「豆腐の聖地」になる日を夢見て
平川さんは今、佐賀の豆腐文化を海外にも広めていこうと考えている。
きっかけは、台湾から来たお客さんのSNS。ある時、「これは世界で1番美味しいスープだ」と投稿されているのを目にした。その瞬間、平川さんは閃いた。
「温泉湯豆腐をスープと捉えれば、温泉湯豆腐は全世界で通用する。食の世界を変えられる可能性もある」
イメージするのは、「春水堂(チュンスイタン)」。台湾で創業されたタピオカミルクティーの専門店だ。台中市内にある1号店には、聖地として世界中から多くの人が訪れる。その味に惚れ込んだ日本人が創業者を説得し、日本進出を実現させて店舗数を増やしてきた。目指すのは、その逆バージョンだ。
2024年6月、平川さんは、インドネシアのジャカルタにいた。
昨年末、佐嘉平川屋の名で豆腐商品をジャカルタに展開したいというオファーがあったのだ。インドネシアでは、日本と同じように豆腐を食べる習慣がある。
「生産の問題はあります。でも市場を見てみると、商品のクオリティは決して高くないのに単価は日本より高い。これは製造業として本気で勝負してもいけるんじゃないかと。人口は世界4番目。これからも増えていくことを考えると、十分可能性があります」
佐賀が「豆腐の聖地」と呼ばれる未来へ向けて、新たな歴史が動き出す。