かつてジーンズは「特殊な商材」だった

「ジーンズの特殊性」が失われたことも要因の一つでしょう。

若い人にはピンとこないかもしれませんが、ジーンズはこれまで一般的なアパレルとは一線を画した特殊な商材でした。そもそもデニム生地の製造自体が特殊な設備が必要ですし、ジーンズの色を落とす「洗い加工」という工程も特殊です。またジーンズの縫製も厚手生地用の専用ミシンが必要ですし、何よりも型紙も通常のスラックスとは異なります。

またジーンズは、ファッションの中でも毛色の違う商品として販売されてきました。バブル期にディスコが大流行しましたが、今のクラブと異なり、当時は「ジーンズ着用お断り」という店が珍しくありませんでした。要するにジーンズは「よそ行きのファッションではない」とみなされていたのです。

こうしたファッションアイテムの立ち位置の特殊性によって、デザイナーズブランドやブティック、セレクトショップ、総合アパレルブランドは、ジーンズはおろかデニム生地製品もほぼ扱っていませんでした。それゆえに、ジーンズを基調としたジーンズカジュアル専門店という小売業態が成り立っていたといえます。

ユニクロでも買えるようになったジーンズ

しかし、2000年代前半から中盤ごろになると、これらとジーンズブランドとのコラボ商品や、OEM業者を通して製造されたオリジナルジーンズが頻繁に発表されるようになります。このころから「ジーンズも通常のファッションの一部」という認識が強まってきたといえます。

ジーンズ業界が成立してから30年強が経過し、多くの人材がその間に育成されてきました。大手ジーンズブランドの社員の中には独立し、それまでの経験を活かしてデニム生地衣料品専門のOEM業者として起業する人も少なくありませんでした。

独立組が立ち上げた多くのOEM企業は、新たな顧客としてデザイナーズブランドや総合アパレル、セレクトショップ、SPAブランドなどを取り込みました。その結果、ジーンズブランドとほぼ遜色のないオリジナルジーンズをどのアパレルでも企画製造することが可能となったのです。

実際、ユニクロにもエドウインの元社員が多く在籍していて、ユニクロジーンズにかつてのエドウインのジーンズのノウハウが注ぎ込まれています。

そうなると、ジーンズブランドの商品とそれを基調に並べていたジーンズカジュアル専門店は特殊性を失ってしまい、総合アパレルブランドやSPAブランド、セレクトショップなどと競争せざるを得なくなります。

もちろん、多少のアドバンテージはありましたが、それとて長続きはしません。徐々に基盤の弱いジーンズカジュアル専門店から淘汰され始め、先述した三信衣料やフロムUSAに加え、ロードランナーなどの大手チェーン店も倒産してしまいました。資本力と地力で何とか持ちこたえていたトップ2社のライトオン、マックハウスもいよいよ支えきれなくなり今回の事態を招きました。