「おとな」がホワイトスペースだった
それが、「おとなディズニー」の導入だったのです。
それまでのディズニーのライセンス商品といえば、アメリカ本社の方針からメイン客層はキッズとファミリーで、それ以外の顧客層にはフォーカスしていませんでした。つまり、キッズとファミリー以外の大人はディズニーにとってのホワイトスペースだったわけです。
そのホワイトスペースに対してリーチできれば、ディズニーはほとんどすべての世代をターゲットにすることができるようになります。
このおとなディズニーという施策は、ホワイトスペースを見事に突くことができたため、日本に多数存在する大人のマーケットを押さえ、同社の売上を大幅に伸ばす原動力になりました。
なぜ、おとなディズニーが同社にとって正しい戦略だったのでしょうか。それは「日本独自の客層」のおかげでした。東京ディズニーランドがオープンしたのは、1983年4月。その当時、ディズニーランドに初めて来園したという子どもが、例えば6歳だった場合、その人は今頃40代後半になっています。
当然、そのあとの世代も子ども時代からディズニーに親しんでいますから、20代から50代くらいまでの日本の大人たちは、大多数が子ども時代にディズニーと接点を持っており、そのほとんどがディズニーに対して少なからず親近感や好印象を抱いているはずです。
日本独自の施策が功を奏す
子ども時代にディズニーに夢中になったことがあってそのまま大人になった人々、そして、思春期にいったんディズニーから離れたけれども結婚し、子どもが生まれ、再び子どもと一緒にディズニーに戻ってきた人々など、日本にはさまざまな「ディズニーに親近感を抱いている人」が存在しているのです。
おとなディズニーという施策は、少子化と相まって日本独自の客層に訴求することができ、その結果、売上を大幅に伸ばすことが可能になったというわけです。
もちろん、日本の特に大人の女性をターゲットにしたこの施策は、海外のディズニーでは採用されていない日本独自の施策でした。いわば、私流のローカライゼーションの一つだったと言えましょう。
このおとなディズニーという施策によって、ウォルト・ディズニー・ジャパンはホワイトスペースを見つけ、「日本の大人(特に女性)」という適切なターゲットを定めました。さらに、親が子どもに買い与えるディズニーベビーと合わせることで、全年齢のディズニーとのタッチポイント(接点)を増やすことに成功し、「三つ子の魂百まで」ディズニーと親しんでもらえるような環境を生みだしました。
大人にディズニーと親しんでもらえれば、当然、その子どもたちにも親しんでもらえるようになります。そうすれば、ディズニーは末永く愛される企業になることができます。