防災グッズを買って満足してはいけない

「防災意識は東日本大震災から10年過ぎてもまったく進化していません。役所に備蓄がある。会社に社員用の防災ボックスが設置されている。防災バッグを家に用意している。それで大丈夫だと安心していませんか? 中身は何が入っていますか? 使い方を知っていますか?」

辻さんの問いかけに、「はい、万全です」と自信をもって答えられる人はどのくらいいるだろうか。

防災グッズを買い揃えて安心している、「防災15点セット」をそのままパッケージを開けずに新品の状態で保管している、自衛隊の使っている最強の防災品を用意しているなど、身に覚えのある話かもしれない。

被災地では、防災品の使い方がわからず使えなかったという話を辻さんは多く聞いてきた。

「災害用トイレを持っていても、4年経過すれば入っている凝固剤が湿気っていて使えないかもしれません。災害用トイレの使い方、わかりますか? 被災して冷静でいられない状況で、悠長に説明書を読んで試すなんてできますか?」

「我慢する」ではなく「心地いい」を目指す

地震が居住地付近で発生したとき、あるいは今年8月のように南海トラフ地震臨時情報が発表された際、防災バッグの中身を見直して初めて気づくのではないだろうか――保存食が消費期限切れだった、ラジオの乾電池が液だれしていた、ウエットティッシュが乾燥していたなど、いざというときに使い物にならない数々のグッズに。

「防災グッズを買い揃えることではなくて、今持っている物をどう使うかを考えることが重要なんです。使い方も知らない使ったこともない防災品で、ストレスフルな避難生活を何日我慢できるでしょうか。

自分が心地いいと感じる避難生活にするという発想に転換しましょう。水は大量に使えないけれど、いつも自分が使っている物をそのまま避難生活でも使えるように工夫すれば、我慢しないですみます。そのためには、在宅避難できる環境を平時から整えておく必要があるんです」

私たちは、防災グッズを揃えるのと同時に、防災の心構えを変える必要があるようだ。

(第2回に続く)

(聞き手・構成=ライター・中沢弘子)
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