なぜこれまでブレイクしなかったのか

これほどまでに魅力のあるへべすだが、同じ柑橘系の中でも知名度は極めて低い。東京の吉祥寺など、一部エリアでの浸透は見られるものの、各地に全然広がらなかったのはなぜか。

理由は簡単だ。生産量が少ないためにほとんど地元で消費され、外に出回らなかったのだ。農林水産省によると、2021年の収穫量は下記のようになっている。

かぼす:5977トン(うち5900トンが大分県)
すだち:4104トン(うち4057トンが徳島県)
へべす:139トン

ブランド保護のため、もともと生産が日向市など特定の地域に限られてた上に、農家も小規模で、高齢化のため生産者数が減少していた。それでも2016年に県は「へべすを宮崎マンゴーに続くような特産品」にする方針を決め、県・日向市・JA日向の三者間で力を合わせることに。

ところが、へべすは収穫までに5年かかるためか、生産に参入する農家が増えなかった。

農林水産省「特産果樹生産出荷実績調査」より筆者作成

ひむか農園、始動!

へべすの大規模生産を担ってくれる、地元企業はないか――。

その時、白羽の矢が立ったのが内山建設の内山さんだった。日向で生まれ育ち地元愛がたっぷり。当時、多額の借入金が経営を圧迫していた家業を、立て直した手腕も評判だった。

さらに2009年には、地元で処理に困っていた、木材に加工される杉の樹皮や、畜産で出る畜ふんをアップサイクルした培養土と肥料の製造販売を手がける会社を設立していた。2018年に県幹部から「へべす生産をしてみないか」と声をかけられた当時をこう振り返る。

「へべすは身近な存在でしたが、即答できませんでした。なぜなら、土と肥料の事業を手がけてはいたものの、農業の経験はなかったから。素人が、天候や病気の影響を受けやすく、マーケットにも大きく左右される農業に参入してよいものかと考えました」

県幹部は「生産をしっかり後押しする」とエールを送ってくれた。さらに内山さん自身も「ビールに絞ると最高に合う」と実感。2018年に農業法人「ひむか農園」を設立して大規模生産に参入し、勝負すると決心したのだった。

写真提供=ひむか農園
ヘべすの果汁は、ビールの味をじゃますることなく引き立てる