仕事の本質は「困りごと」をなくす

ねじが落ちていることなど、目の前の問題発見ができたら、次は自分から問題を探して解決を考える。学園で指導員が教えようとしているのは問題の発見と解決だ。つまり、困りごとをなくすことにある。

そう考えていくと、トヨタという会社の使命は困りごとをなくすことにある。

自動織機の優秀なエンジニアだった豊田喜一郎が「日本人の手で自動車を作ろう」と思ったのは金もうけでもなければ、自動車マニアだったからでもない。関東大震災で被災した人が病院へ行こうにも、車が足りなかったからだ。車が足りないという困りごとを解決するために純国産乗用車の開発に着手したのである。

そう聞くと、人は「美談だ」と感じて、一片の疑いの心を持つ。しかし、どんな人でも仕事をしていて最大の喜びとは他人からの感謝なのである。他人の困りごとを解決して感謝してもらうことができたら、それは金銭には代えられない最大の報酬だ。

「困っていたところを助けてくれてありがとう」と言われたことのある人は理解できるだろう。仕事を通じてお金を得ることはありがたい。しかし、人間は欲が深いから仕事の対価としてお金だけでは満足できない。他人の笑顔、感謝は生きていること、仕事をすることで得られる収穫なのである。

2時間、人間について学ぶ授業「講話」

同校では人間について教える授業があり、講話と呼んでいる。専門部では毎週、金曜日に行う。時間は少なくとも2時間。午前、午後に続けて講話を行うことだってある。講師は外部の専門講師ではない。トヨタの現役社員だ。

話す内容は多岐にわたっている。社会人としてのマナー、実際の仕事における問題解決の方法、トヨタ生産方式とは何か、トヨタ生産方式を通じたカイゼンのやり方……。

講話と聴くと精神論と思いがちだが、学園の講話は精神論ではない。そして、現役社員の自慢話でもない。どちらかといえば失敗談、開発における苦労話がおおい。

卒業生たちに「学園で覚えている授業は?」と訊ねると、大半の人間は「講話です」と答える。そして、「自分がトヨタに入社して講話で聞いたことがもっとも役に立った」とも教えてくれた。

身近なこと、小さな問題の解決について社員の目線で話すことが講話なのだろう。