真偽不明の「ルーツ神話」に関心が集まる
――ほかにも祖先が話題になった有名人はいるでしょうか?
たとえば習近平についても、中国のネット上には祖先のルーツをさぐる記事が削除されずに残っています。いわく、習氏の源流は春秋時代に貴州省付近に存在した「しゅう(魚偏に習)国」の民で、やがて魚偏を取って「習」を名乗ったと。一族からは前漢の襄陽公・習郁と東晋の歴史家・習鑿歯が出たと。
その後、江西省臨江府に住んでいた習近平の十数代前の祖先は、14世紀の明代初期に河南省南陽府の習営村に移って子孫を増やし、その子孫の一人である習永盛は、清朝末期に凶作と蝗害に苦しんで陝西省富平県に移った。この人が習近平の曽祖父である……と。
もっとも、これは習近平が偉い人だから特別に話が残っているわけではなく、中国人の多くが、真偽は不明ながらこの手のルーツ神話を持っているわけです。そして、有名人についてはそのルーツ神話そのものが、世間の人の関心事になると。中国はそういう国です。
熾烈を極める中国の受験競争
――血縁を重視する中国社会で、ほかに特徴的な事例はありますか?
中国の大学受験「高考」は全国共通の試験を受けるのですが、地元でトップになると日本の比ではないレベルで崇め奉られます。各省の文系・理系の上位者は、メディアで名前が公開されます。その1位は「状元」、第2位は「傍眼」、第3位は「探花」と呼ばれますが、これらは王朝時代の官僚登用試験だった科挙に由来した呼び名です。
地方の名門一族の出身者の場合、「○○君、状元及第」などと書かれた横断幕を高級車に貼り付け、本人を乗せて街をパレードさせることもある。日本に置き換えれば、甲子園優勝チームやオリンピックのメダリストぐらいの“地元の英雄”として扱われるわけです。
近年、中国の大学受験で英語ではなく日本語を選択する受験生が増えていますが、これは少しでも高得点を取れる可能性のある科目を選ぶという、一種の受験テクニックです。中国の人口は日本の11倍ですが、大学受験者数は26倍にもなり、競争は極めて熾烈です。