朝ドラファンも失った?
視聴者層拡大はNHKにとっての課題だ。
筆者も同局職員時代、ミニ動画展開で若年層へのリーチを試み、経営課題に挙げていた接触者率(1週間で5分以上NHK発の情報に触れる人の比率)を3%ほど上げることに成功した経験がある。
ただしトライアルは、コアファンを失っても構わないわけではない。
残念ながら「おむすび」は、隘路に陥り始めている。「虎に翼」では、第2週で企業に勤める女性の役員や管理職の視聴者数を急伸させた。併せて非管理職や派遣・パートの人々も伸ばしていた。
ガラスの天井に挑んだ女性を主人公にしつつも、弱い立場の人々への配慮も忘れなかった展開が幅広い層の支持をとりつけたからだ。
ところが「おむすび」は失敗している。
「虎に翼」が獲得した新たな視聴者層をわずか2週間で気前よく手放してしまった。急伸した女性の役員や管理職は、瞬く間に離脱した。派遣・パートの女性たちも興味を失っている。
なによりも女性20~50代の「テレビドラマ好き」層が、じり貧なのが痛い。「虎に翼」が急伸させた貯金を、序盤で浪費した格好なのが残念でならない。
残る可能性は土曜ダイジェスト⁉
「おむすび」は月~金で視聴者を失っている。
ただしまだ一縷の望みが残っている。平日の視聴をやめたが、まだ土曜の1週間ダイジェストを見ている人が残っているからだ。
「今週から土曜日のみ観ることにした」
「しばらく土曜だけ見て様子見かなぁ」
「内容ぺらっぺらなので土曜の週間総集編だけでいっか」
こんな声もSNSには少なくない。
「(月~金で)無駄にした時間は戻ってこない」から、対応措置として土曜だけチェックしておくという人が一定程度残っているのである。まさにタイパの時代と言えそうだ。
ただし安心してはいけない。
「続きが全く気にならない」「次回予告見てもワクワクしない朝ドラは久々」など、今後に期待できないという声も少なくない。
最大の課題は、主人公はじめ周囲のギャルたちの言動を、多くの視聴者が“じぶん事”と受け止められないからだ。
「虎に翼」には、その要素がいくつもあった。
過去100年で女性たちが何度も思い知らされた悔しさや、弱い立場の人々の絶望感がバランス良く散りばめられていたからだ。
これに対して「おむすび」では、ここまでの展開上で大きなウエイトを占めるギャルの言動に共感できない。さらに彼女たちをほっとけない主人公の性格(=米田家の呪い)が説明不足で、橋本環奈にも気持ちが乗らない。
これらを放置した展開は危ない。
いつまでも課題を放置せず、今後に一縷の望みを持つ層の期待に早く応えないといけない。
「脱落しそうだったけど 昨日の放送(第2週の金曜)で泣けた」
「ギャルは実は純粋、結果面白かった」
「今週、少し面白くなってきて、多分、徐々に面白くなるであろうことを期待している」
相撲でいえば、まだ徳俵につま先が引っかかっている視聴者が残っている。
そんな人々が土俵の中央まで押し戻されるか否かは、第3週がラストチャンスと言えよう。
「普通の人の普通のお話」を選ぶか否かは演出陣の自由だ。
ただしドラマである以上は、魅力的で登場人物に共感できるように描いてほしい。さもなくば、「おむすび」は“コロリンすっとんとん”で終わってしまう。