記憶は、「契約したスポーツジム」と似ている

人の性格はさまざまだから、向き不向きはあると思う。神経質と聞いて「自分にも覚えあり」と思った人は、一度試してみるといいかもしれない。

古舘伊知郎『伝えるための準備学』(ひろのぶと)

ところで、今は朝日新聞デジタルに過去の記事がアーカイブされている。「折々のことば」も例外ではない。僕もたまにデジタル版で見ては、「このいい言葉……」とデバイス上に保存しようとすることがある。でも、やめる。保存すると、「いつでも見られる」と安心するから、保存したという事実をもって忘れてしまう。

僕はこれを「契約したスポーツジム理論」と呼んでいる。理論でもなんでもない、ただの思いつきだが、「理論」と付ければ前々から考えていたように見える。これがいやらしいなぁと思って言ってみたのだが、スポーツジムとは多くの人にとって、行くところではないと思うのだ。会員になり、「これで毎日のように行ける」と思って安心した結果、行かなくなる場所。もちろん、定期的に通う方もいるだろうが、僕のようなズボラ人間であれば、「幽霊会員」になっている人が多いのではないだろうか。

記憶も「契約したスポーツジム」とちょっと似ている。スマホの中に保存してしまうと、いつでもすぐにアクセスできるので覚えない。そして、いつでも見られると安心するので、思い出そうとすることも減り、「『折々のことば』にいい言葉が載っていた」という記憶そのものが消えてしまう。「幽霊会員」ならぬ「幽霊記憶」だ。

スマホに保存したところで、何も覚えられっこない

中には、デジタルを活用するスマートな方法が向いている人もいるだろう。だが僕には、どうも馴染まない。安心するといろんなことを忘れていって、引っ掛かりがなくなってしまう。残念ながら僕のような捻くれ者には、向いていないのだ。

スマートフォンにスマートに保存したところで、何も覚えられっこない。要領の悪い僕には、面倒くさくて時間のかかる方法が一番合っている。

ギザギザの切り抜きは、あくまでも記憶のトリガー。そこに書かれていることを丸ごと覚えておくためのものではなく、「なんかいい言葉が載っていた」という違和の引っ掛かりだけ残しておいて、後から手繰ることができるようにしているわけである。

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