「殴ったことは後悔していません!」
弁護人「マツダさんが怒鳴り込んできたとき、どう思いましたか?」
被告人「1回目のときは、実際に音楽を流していたのですぐに謝りました。でも2回目以降は、家具を移動した音や鍋を落とした音などで文句を言ってきたので、変な人だなと思いました」
弁護人「あなたはこのマンションに24年間住んでますよね。24年の間、ほかの住人とトラブルは?」
被告人「ありません」
弁護人「マツダさんに玄関ドアの穴から盗聴されたことがあったとか?」
被告人「私は見てませんが、ほかの住人が、マツダが私の家のドアに耳を付けて、中の音を聞こうとしているところを見たそうです。住人がそのことを注意したら、『盗聴は権利だ』と言い返されたらしいです」
このエピソードは明確な証拠が出ていなかったので、事実かどうかは判断できませんが、事実だとしたら「盗聴は権利」とは信じられない発言です。
弁護人「マツダさんの名誉を毀損するようなチラシを作ったのはなぜ?」
被告人「マツダのせいで21年に1人、22年に2人引っ越したと知って、義憤に駆られてのことです」
弁護人「チラシには、マツダさんが強姦や傷害で逮捕されたと書いていましたね?」
被告人「すべて私のでっち上げです」
弁護人「なぜそんなウソを書いたのですか? 復讐みたいな想いもあったんでしょうか?」
被告人「少しはありました」
弁護人「もっと大きいチラシにしようとか、枚数もたくさん貼ろうとは思わなかったのですか?」
被告人「マンションを追い出すためではなく、マツダの素性を知るというか、同じ土俵に上げるためだったので」
ここまでは、マツダさんにもトラブルの原因や責任があるのかもと被告人に寄り添いたくなる流れだったのに、「同じ土俵に上げるため」に小さなチラシ6枚に控えたという謎の言い訳が出てきました。
弁護人「今、事件を振り返って、どう思いますか?」
被告人「チラシを貼ったことは反省していますが、殴ったことは後悔していません!」
弁護人「それはなぜですか?」
被告人「マツダのせいで、3人もマンションから引っ越しているので」
殴ったことについては認めたうえで、間違った行動ではなかったと主張する被告人。法廷の中だけでも「殴ってしまって申し訳ない」と言えばいいものを、裁判官の心証が悪くなる発言をしてしまいました。
そして2週間後に判決があり、結果は罰金30万円というものでした。被告人の怒りも理解できるのですが、そんなチラシを貼っても騒音のクレームは減らないはず。ほかに手段はなかったのでしょうか……。
この手の近所トラブル裁判を傍聴して思うのは、著しくマナーが悪い人が近所にいたときは、内輪だけで話をまとめようとすると歪みが生じやすいこと。面倒くさがらずに、警察や役所に相談してみましょう。
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年10月4日号)の一部を再編集したものです。