洗剤の製造工程でボルネオ島の熱帯雨林を破壊

サラヤでは、「『ひとと地球にやさしい製品づくり』によって、人びとの『笑顔・環境・健康』に貢献する製品とサービス」をコンセプトに、1952年の創業当初から天然素材を使用し続けています。

天然素材として採用されているのは、1980年代まではココヤシからとれるヤシ油がメインでした。現在では、アブラヤシからとれるパーム油、パーム核油が主流となっています。

しかし、サラヤでは、それがアダとなって、「ひとと地球にやさしい」どころか、環境破壊や動物虐待と言ってもいいようなことをしている企業との糾弾を受け、存亡の危機に直面したことがありました。

それは『Happy Elephant』を企画した代島裕世だいしまひろつぐ取締役が広報担当だった当時、あるテレビ局から、「貴社が製造販売しているエコ洗剤の原料であるパーム油の原産地・ボルネオ島のドキュメンタリー番組に出演して、コメントをもらえませんか?」と誘われたときに始まりました。

植物油の中でパーム油は世界で最も需要が高く、生産量も世界ナンバーワン。その生産量の約8割をインドネシアとマレーシアの2国で占めています。

特に、インドネシアとマレーシアとブルネイで領土を分け合うボルネオ島がその主要産地で、ボルネオ島の熱帯雨林は多種多様の野生動物が生息することでも知られています。

写真=iStock.com/yusnizam
※写真はイメージです

しかし、大量のパーム油を生産するために、その熱帯雨林の樹木が根こそぎ伐採され、広大な面積のアブラヤシ農園がつくられていました。

この番組取材は、日本の消費者がボルネオの熱帯雨林を破壊しているアブラヤシ農園の実態を知らなすぎることに警鐘を鳴らすために企画されたもので、決して「ヤシノミ洗剤」を悪者にしようという意図はありませんでした。

ヤシノミ洗剤を作り続けるための変革ストーリー

取材チームが足を踏み入れたのは、東マレーシア領・サバ州のキナバタンガン川流域。ここには巨大なアブラヤシ農園が広がる一方で、地元住民が小さな野生動物を捕獲するためのワイヤートラップがあちこちに仕掛けられています。

その一画で、トラップのワイヤーに前足や鼻が引っ掛かり、苦しんでいる仔象の姿が放送されました。そして、番組内容を事前に見たサラヤ2代目社長・更家悠介さらやゆうすけ氏の「こんな現実は知らなかった。知ったからには行動を起こしていく」というコメントも流れました。するとたちまち、視聴者からサラヤに、クレームの電話が次から次へとかかってきました。

「ヤシノミ洗剤をつくるのをやめるのが一番の解決方法では?」

という意見が多数でした。代島氏は番組制作会社から情報収集して、これからやるべきシナリオをつくりました。これに更家社長も理解を示してくれました。

更家社長は、代島氏の話を聞いて本気で問題意識をもって、何らかの変革、アクションを起こさなければと行動に出ます。ボルネオ島に直接出向き、現地の州政府と対話し、ボルネオ島の生態系を守るための新しい取り組みを共同で行わないかとオファーしたのです。

ところが相手の州政府の対応は、「プロジェクトを提案するなら、それを実行する資金も提供してください」というものでした。あまりのことに愕然とするのですが、パーム油は現地の貴重な財政源。

熱帯雨林を切り開いてアブラヤシ農園をつくってパーム油を生産・輸出することで財政を確保していくうえで、象やオランウータンを守る活動を始めなければ消費者や環境保護団体の理解を得られないことはわかってもらえました。