約10年前から退職理由に「電話」があげられていた

電話が切れないという例は意外と多く、休日やそれこそ睡眠時間を削ってまで、長電話につきあっているうちに、もう電話はいや、メールやLINEだけでやりとりしたいという状況になっていきます。

長電話が切れないのは、「NOと言えない人」「断れない人」の特徴です。断れないから相手に合わせつづける。合わせつづけるから苦しい。苦しいからゆがみが生まれて、結果的に人間関係にひびが入ってしまうというわけです。

入社後1年未満で会社をやめる社員の理由に「電話」があげられるようになったのは2015年ごろのことです。産業カウンセラーを務めている私も、「電話が離職の原因」と聞いて、初めは信じられませんでした。でもその話を人事担当者に話したところ、「うちでもありますよ」と言われて驚いたことを覚えています。

「電話がこわい」という傾向は年々強くなっています。最近では、電話応対をしている最中に泣き出してしまう例も出始め、電話恐怖症は若者の間で定着しつつあるのではないかと感じます。

自分の意志を伝えられない人が増えている

もうひとつ、2015年ごろから顕著になってきた傾向があります。それは、自分の意思を伝えられない人が増えてきたということです。

私が以前から新人研修で必ず聞く質問があります。それは「もしランチセットで食後にコーヒーを頼んだのに、紅茶が来てしまったとき、あなたはどうしますか?」というものです。2015年以前ですと、「店員さんに言って、注文通りのコーヒーに替えてもらう」という人が7〜8割でした。しかし最近では、「替えてもらう」のは5割弱。つまり半数以上の人は「黙ってそのまま紅茶を飲む」というのです。

大野萌子『電話恐怖症』(朝日新書)

コーヒーが飲みたかったのに紅茶が出てきたとき、なぜ「替えてください」というひと言が言えないのでしょうか。その理由について、「なぜ言わないのか?」と聞いてみると、以前は「面倒くさい」とか「まあいいやと思うから」という答えが多かったのですが、最近は「何と言えばいいかわからないから」「どう思われるか心配」「言うタイミングがつかめない」などの回答が多くを占めるようになりました。

つまり人とどうかかわるのか、コミュニケーションの問題が浮上してきているのです。もし日本人が近年コミュニケーション下手になってきているとしたら、電話で話すのがこわくなるのは当たり前といえるでしょう。電話恐怖症は日本人のコミュニケーション力の低下と密接に関係しているのです。

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