今年6月、KDDIで初となる女性の社内取締役が誕生した。CFO(最高財務責任者)、コーポレート統括本部長の最勝寺奈苗さんだ。これまで担った役職の多くに同社女性初がつく。中でも、30年以上前、育休制度が整っていなかった時代に出産し職場復帰した経験は、その後のマネジメントスタイルと社内改革に大きな影響を与えたという――。

新たなポジションから見える風景に感動

最勝寺さんの経歴は“社内初”“女性初”で彩られている。

一般職から総合職へ転換したのが社内初。

育児休業の取得も社内初。

職歴ではグループリーダー、部長、理事(役員)が女性初。

KDDI 取締役執行役員常務 CFO コーポレート統括本部長 最勝寺奈苗さん
撮影=遠藤素子
KDDI 取締役執行役員常務 CFO コーポレート統括本部長 最勝寺奈苗さん

KDDIの女性活躍を象徴するようにポジションを駆けのぼってきたことがわかる。

社内取締役についても「女性第一号は彼女をおいてほかにない」という声が聞こえてきたのは当然だろう。しかし最勝寺さん自身は、今回の就任を打診されたとき、正直不安もあったという。

「実力も経験もまだ足りないと思っていましたから。ただ、女性の社内取締役が会社に必要であることは間違いありませんし、私はコーポレート統括本部長として女性活躍を推進してきた立場です。尻込みしている場合じゃない、と頭を切り替えました。これまでも役位が上がるたびに責務の重さにプレッシャーを感じる一方、新しいポジションから見える風景の広がりに感動し、やりがいを覚えたことを思い出しました」

女性の総合職転換第1号

社内で女性のトップランナーとして走りつづけてきた最勝寺さん。しかし入社した頃から高みを目指していたわけではない。

最勝寺さんは1987年に同志社大学文学部の英文学科を卒業後、出版社に就職して経済誌の編集業務に携わった。第二電電(現・KDDI)に転職したのは1年後。転職先に選んだのは、出版社の知人から「この会社がいいんじゃない?」とすすめられたのがきっかけだった。事業内容などはあまり意識しないまま採用試験を受けて合格。電話で内定の連絡を受けたとき「経営管理部に配属されます」と言われ、「軽管理部? 軽い管理部かな」と勘違いしたほど暢気な新入社員だった。

女性は結婚や出産のタイミングで会社を辞めるのが当たり前の時代。2年後に総合職へ転換したのも、上司からの勧めがあったから。制度はあったが前例はなく、面接を受けたのは最勝寺さんひとりだった。

経営管理部では、部門別の採算管理や経営計画の作成を担当。米モトローラと第二電電、京セラが出資した衛星通信サービスの日本イリジウムに3年間兼務出向し、経営管理のほか料金シミュレーション、スポンサーシップなど幅広い業務分野を経験した。2000年のDDI、KDD、IDOとの3社合併にも携わり、2003年からIR室長を8️年間務め、経営管理本部財務・経理部長を経て、2014年に女性初の理事(役員)となった。