紛争の根源を理解できていない人が多すぎる

実際、私はガザ紛争に関する日本の新聞記事を読んでいると不愉快になります。今回の問題の根源が、イスラエル国家とユダヤ人の生存権を担保することにある、という基本中の基本を理解できていない記者や言論人が多いからです。

「最後の植民地国家であるイスラエルは、存在する権利がない」と言わんばかりの、1960年代、70年代に新左翼の過激派が唱えていたのと同じような思考パターンの記者や有識者があまりにも多い。

こういった中途半端な知識人が大衆にたいへんな悪影響をおよぼすという点を、オルテガは強く糾弾しています。

そしてこの視点は、オルテガだけのものではありません。アインシュタインとフロイトが行った往復書簡にも、共通する多くの点を見ることができるのです。

天才物理学者と精神分析医との往復書簡

アインシュタインとフロイトとの往復書簡(『ひとはなぜ戦争をするのか』)は、1932年に国際連盟の国際知的協力機関からの提案によって行われました。その提案とは、アインシュタインが世界中の人間のなかから好きな人間を選び、その人と、今の世界で最も重要であると思われる問題について意見交換をするというものでした。

アインシュタインが選んだ相手は、意外にも高名な精神分析医のフロイト。テーマは「人間を戦争というくびきから解き放つことはできるのか?」でした。

アルバート・アインシュタイン(写真= United States Library of Congress/PD-US missing SDC copyright status/Wikimedia Commons
ジークムント・フロイト(写真=Ludwig Grillich/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons
 

このテーマを選んだ理由について、アインシュタインは、「技術が大きく進歩し、戦争は私たち文明人の運命を決する問題となりました。このことは、いまでは知らない人がいません」と述べ、さらに「私の見るところ、専門家として戦争の問題に関わっている人すら自分たちの力で問題を解決できず、助けを求めているようです」と語っています。

そして、戦争の問題は人間の感情や心理とも深く関わっており、議論の相手として心理学のエキスパートであるフロイトを選んだというわけです。