確率論上は「保険は絶対に損をする」
とはいえ、「がん」も病気です。健康保険の対象となる治療や投薬であれば、70歳未満の自己負担は原則3割ですし、高額療養費の制度もあります。仮に月100万円の医療費がかかっても、一般的な所得の人なら自己負担は9万円程度で済みます。ただし、無認可の抗がん剤や、高度な先進医療を受ける場合は全額自己負担なので、そのような治療や投薬を受ける場合は、自負担額が高額になるケースもあります。だからこそ、がん保険には入っておいた方がいいと勧められるケースが多いわけです。
しかし、実際にがん保険やがん特約に加入している人は、次ページのグラフを見る限り、全体の4割程度のようです。
いくら確率が高くても健康保険があるので、自己負担はそれほど高額にはならないのが通常です。そして先進医療とは、必ずしも効果があるかどうかが明確でないからこそ健康保険の対象になっていない治療法なので、がんになったら誰もが受けるもの、というほどではないのです。
もっと根本的なことを言ってしまうと、民間のがん保険や医療保険は、確率論上は必ず保険会社が勝つようにできています。そうじゃなかったら保険会社はみな破綻します。
なので、基本的な考え方として持っておくべきなのが、「保険は確率の低い事態に当たらない限り、絶対に損をする」ということです。損になることを前提として、本当に備えておくべきなのかどうかを冷静に考えましょう。
「損得だけでは計れないポイント」もある
私は、がん保険も医療保険も、自己負担が高額になる可能性が低いので、基本的には不要だと思っています。
とはいえ、いくら貯蓄で対応できると思っていても、実際に「がん」が分かった時の精神的なショックは大きいでしょうし、治療にあたって、せっかく貯めた貯蓄を取り崩すことにも、抵抗を感じる人も多いかもしれません。そういう意味では、損得を別にして、「精神的なショック」や「貯蓄を取り崩す抵抗感」を緩和するためにがん保険や医療保険に入っておくという考え方があることも、一概に否定はできないと思っています。
上のグラフを見ても、男性は罹患率が50代以降に急激に上昇していきますが、女性は30代・40代のうちから上がっていきます。特に、統計上では乳がんは女性の9人に1人がかかります。
経済合理性を考えると、がん保険は不要です。ただし精神面や感情面といったエモーショナルな点を考慮すると入っておくことで得られる安心感や、実際にがんになった時のショックを金銭面から和らげる可能性は、損得だけでは計れないものかもしれません。どうしても心配なら、ご自身の考え方や価値観で加入を検討しましょう。
最後に、がんに対して何よりも重要なのは、「早期発見、早期治療」です。健康診断や人間ドックは定期的に受けましょう。
(正直FP 菱田雅生)
経済合理性から考えると、がん保険は不要。エモーショナルな面では100%不要とも言えない。