同じ内容の授業が繰り返されることはない

学生と教員の関係も、日本でイメージするものとは異なる。先生が持つ知識やノウハウを、学生に「教える」といったものではないのだ。

アフリカ音楽の授業で、楽器に触れる先生と生徒 撮影=大門小百合

ヤーンセン副校長は、フォルケホイスコーレでの学びを、「船作り」に例えてこう説明する。

「例えば、みんなで船を作る場合も、ホイスコーレの教員は、木などの材料を一覧にして作り方を指示するようなマニュアルを作ったり、学生と金づちを使って一緒に船を作ったりはしません。船とひとことに言っても、ある人にとってはいかだかもしれないし、豪華客船を作りたい人もいるかもしれない。スピードボートやカヌーの人もいるでしょう。それでいいのです」

ヤーンセン副校長は言う。「フォルケホイスコーレの教育者の役割は、海の青さ、海に出ることの醍醐味、海の素晴らしさを学生と共有することです。それを学生とともに体感し、共有して、『海に出たらどれだけ素晴らしい体験ができるか』を見せてあげる。それが教育者だと教えられました」

日本からきた大学生でこの学校の留学生の1人、本間さや香さんも、授業についてこう語る。

「最初に『今何を考えているの?』『この前の授業はどうだった?』『今、何が心に残っている?』と聞かれます。そこで一人ひとりが、自分の中にあるものを取り出して言葉にすると、授業はそれをもとに組み立てられ、発展していくので、一度として同じ内容の授業が行われることはありません。メンバーも変わるので、素材も変わります。すごくフレキシブルで、生徒にとって本当に良い学びになる授業だと思います」

フォルケで学ぶ「話し合い」の進め方

本間さんは、「最初は自分の意見を発言することが苦手だった」と明かす。

「ただ、ここでは、どんな意見を言ったとしても受け入れられるという安心感があります。否定されないし、正解を求められません。どんな意見であっても『私の意見』であればそれで良く、『間違い』とされることはありません」

フォルケホイスコーレでは、自分の意見を相手に伝え、合意によって物事を決めることが前提になっている。これが「民主主義の学校」と言われるゆえんなのかもしれない。合意できない場合は、どうしたらよいかを話し合って解決策を見いだす民主主義の精神が、授業に限らず共同生活の中でも根付いているという。

例えば騒音がうるさい、バスルームの使い方が気に入らないなどルームメートに不満がある場合、日本人留学生はすぐに「部屋を変えてほしい」と言ってくることが多いという。

「『0か100しかない世界で生きている』というのでしょうか。自分が我慢するか、相手に我慢してもらうかという二択しかないと考えていることが多い。フォルケで学んでほしいのは、それ以外の選択肢もあるということなんです」(ヤーンセン)

撮影=大門小百合
ノーフュンスホイスコーレの寮の個室