ほかの留学では得られない学び

また、フォルケホイスコーレへの留学経験者に話を聞くと、「語学力」「仕事に役立つスキル」など実益に直結するメリット以外のものを得られたと語る人は多かった。

私が初めてフォルケホイスコーレのことを聞いたのは数年前。若者の政治参加を推進するNo Youth No Japanという団体を立ち上げた能條桃子さんが、大学時代にフォルケホイスコーレに留学し、デンマークの若者たちと共同生活をしたと話してくれた時だった。彼女にどんな学校だったのかと聞いたところ、「民主主義の学校です」との答えが返ってきたのが印象的だった。

他にも、留学のおかげで「自分の精神が安定して、人と自分を比べることがなくなった」「コミュニティへの貢献という概念が身に付いた」「家族の愛情や空の青さなど、日常の美しさを感じられるようになった」という普通の留学からは想像できないような答えが返ってきた。

社会福祉の先進国として知られ、国民の幸福度も高いというデンマークだが、大人のための学校では、どんな教育が行われているのだろうか。昨年11月に、日本からの留学生を多く受け入れているフォルケホイスコーレの一つを取材した時の話を紹介したい。

教科書を使わない授業

私が訪れたノーフュンスホイスコーレは、デンマーク中央部にあるフュン島の、ボーゲンセという港町から約3キロの場所にある。広大な緑の敷地の中にある全寮制の学校で、キャンパスでは学生約75人が生活していた。

学校には政府から運営費の半額の補助金がでており、半分以上の学生がデンマーク人であるよう義務付けられている。デンマーク人の授業料は無料だが、留学生は学費の3割ほど負担する。半年コースの学費は寮費も併せて約90万円で、アメリカやイギリスに留学するよりはるかに安い。

ノーフュンスホイスコーレの特徴の一つが多様性で、ヨーロッパ、アジア、アフリカ諸国などの留学生のほか、知的障がいを持つ人も一緒に共同生活をしながら学ぶ。教員も国際色豊かで、校長はイラン人、副校長は日本人だ。

授業の進め方の中心となるのは「対話」。学生たちから、親しみを持って「モモヨさん」と呼ばれている、副校長のヤーンセン・モモヨ(Momoyo Jørgensen)さんは、「学生たちの言葉から授業を膨らませていく」と語る。

「教科書を使って授業をしているホイスコーレは一つもありません。それぞれの学生が言った言葉が相互に作用していくので、そこから授業を膨らませる。対話しながら授業をしていくのです」