指導を繰り返しただけで「勧告」すら行わなかった

現場を確認しながら、長年にわたって虐待的な状況を見過ごしてきた責任は重い。高井係長は「事前に通告して立ち入り検査に行っているのに、掃除も換気もしていない。そんな状態が長年にわたって続いてきた。冷静になって考えれば、きわめて悪質な業者。なぜ悪質性に気付けなかったのか、反省しないといけない」と認める。

動物愛護法では、飼養管理基準省令が制定される以前から、環境省が定める基準に適合していない状況がある場合、業者に対して「勧告」ができ、それでも改善が見られない場合には「命令」、続いて「登録取り消し」または「業務停止」の処分を課せる。

写真=iStock.com/danishkhan
※写真はイメージです

だが、アニマル桃太郎に対してはただ指導を繰り返しただけ。勧告すら行っていなかった。長野県は21年10月、検証チームを発足させた。22年3月までに、問題が起きた背景を「法による措置を実質的に非常に困難なものと思い込んでいた」「法改正の趣旨などに対応した主体的な考えや行動ができなかった」などと結論づけた。

高井係長は言う。

「(飼養管理基準省令制定以前の)基準があいまいで、不利益処分に踏み込むことが非常に難しいと、職員皆が誤解していた。以前の基準でも、実際にはもっと強い指導、処分ができたのに、残念ながらそういう認識に至らなかった」

半数程度の自治体しか立ち入り検査のめどが立っていなかった

検証を受けて長野県は、行政指導や不利益処分を円滑に行うための「実施要領」を制定。「2回の指導を行ったにもかかわらず改善が確認できない」時点で「始末書」などを提出させることにした。それでも改善が見られなければ勧告へと進む。

「指導の回数に上限を設け、抜き打ち検査の活用なども決めた。今回のような事件を二度と起こしてはいけない。再発防止に努める」(高井係長)

長野県の検証結果は22年春、環境省を通じ、動物取扱業者の監視・指導にあたる全国の自治体に配布された。同省動物愛護管理室は「繁殖業者やペットショップへの指導、監督体制の充実を図りたい」とその意図を説明した。

アニマル桃太郎による大規模な動物虐待事件の発覚を受けて、関係者の間では、業者を指導、処分できていなかった長野県や松本市の責任を問う声とともに、全国の自治体の現場で、飼養管理基準令が適切に運用できているのかどうか、不安視する見方が広がった。そこで私は2021年12月、動物愛護行政を担うすべての都道府県、政令指定都市、中核市に対して調査を行った(129自治体、回収率100%)。

繁殖業者やペットショップに対する監視や指導を担う自治体はそのうち107。飼養管理基準省令を適切に運用するカギとなる業者への立ち入り検査について尋ねると、21年度中に全業者への立ち入りを終える自治体は35にとどまった(予定も含む)。経過措置が設けられた飼育ケージの最低面積(容積)にかかわる基準などが施行され始める、22年度中に終える予定の24自治体をあわせても、5割強程度しか立ち入り検査のめどが立っていなかった。