県警が捜索に入るまで、飼育状況を確認していなかった
松本市保健所食品・生活衛生課の大和真一課長は「大規模な業者であり、特別であるという認識はあったが、県警が捜索に入るまで一度も立ち入り監視を行っておらず、飼育状況を確認できていなかった」と認める。
行政はなぜ機能しなかったのか――。松本市が犬猫の繁殖業者など第1種動物取扱業者に対する監視・指導業務を担うようになったのは、21年4月に同市が中核市になって以降だ。それまで監視・指導に責任があったのは長野県。
大和課長によると、県からの引き継ぎは「正式には、書類をそのまま引き継いだだけ。具体的な中身について係長レベルで話を聞いたりしてはいたが、アニマル桃太郎は継続的に対応している案件の一つであり、切迫した状況であるという危機感は伝わってこなかった」。
大和課長は長野県の公衆衛生獣医師として勤務し、定年退職後、松本市が中核市となるにあたり、松本市保健所の食品・生活衛生課立ち上げのため任期付き職員となった。長く保健所業務に携わってきた経験から、「食品関連でも動物関連でも、ずっと事業者と接してきたが、犯罪者を作るために監視、指導にあたるのではない。法令違反があれば、犯罪者にならないよう是正してもらうのが仕事だと考えてきた」と話す。
異常な飼い方という認識はまったくなかった
でも今回は「犯罪」として裁かれようとしている。大和課長は言う。
「歴史的により付き合いが長い食品関連の事業者は、事業者自身、食中毒などを出したくない思いが強い。保健所が問題を指摘すると、しっかり改善してくれる。だが動物関連の事業者は、それとは少し雰囲気が違う。その違いの認識が、我々は甘かったかもしれない」
一方で、松本市が中核市に移行する前まで責任があった長野県は、この事件をどう検証したのか。
長野県食品・生活衛生課の高井剛介係長は、県内の保健所で動物愛護法関連の業務などに携わった後、21年4月、現職に着任した。「県では、限られた人員のなかで選択と集中をはかり、飼育数の多い繁殖・販売業者については年1回のペースで立ち入り検査を行ってきた」と言い、アニマル桃太郎の繁殖場については「異常な臭気を感じた職員もいたが、換気をするよう指導していた程度。異常な飼い方という認識はなく、そのままで良しとしていたようだ」と説明する。
長野県は、記録の残る16年度以降、計9回の立ち入り検査をしている。最後は21年3月、2カ所あった繁殖場のうちの一つに入った。前年12月に立ち入った際、飼育数を減らし、掃除と換気を徹底するよう指導していたが、掃除と換気の面で改善は見られず、飼育数は「500匹いたのが495匹になった」との報告を受けただけだった。これ以前も、同じような内容の指導を繰り返すにとどまっていた。