ニーズとウォンツを分ける

この「穴」のことをマーケティング用語で「ニーズ」といいます。そして、「ドリル」のことを「ウォンツ」といい、両者は明確に区別されています。

ニーズは顧客の根本的な欲求のことで、ウォンツはそのニーズを満たすための手段の1つにすぎません。「商品を販売すること」はウォンツ視点、「顧客を満足させること」はニーズ視点であることが、このドリルと穴の関係からおわかりいただけるのではないでしょうか。

ニーズとウォンツの違いを意識することはとても重要です。

身近な例として「掃除機」で考えてみましょう。皆さんは、掃除機のニーズは何だと思いますか? おそらく、ほとんどの方が「部屋をきれいにすること」と答えるのではないでしょうか。

では、それを踏まえた上で1つ質問をします。

1994年に日本で発売され、6年後の2000年には世帯普及率が45%と爆発的にヒットした、掃除機と同じニーズを満たす商品があります。さて、何でしょうか?

ロボット掃除機の「ルンバ」を思いついた方が多いかもしれません。しかし、ルンバは2002年発売なので不正解です。

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事例1:クイックルワイパー

答えは「クイックルワイパー」です。立った状態のままで床の雑巾がけができる優れものの掃除道具です。この商品は電機メーカーではなく、日用品メーカーの花王が販売しています。

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多くの電機メーカーが掃除機の吸引力向上や騒音抑制といったハードウェアのスペック向上に血道を上げている市場において、顧客ニーズを深堀りした花王が見事に成功した事例といえるでしょう。

私たちはいったん製品やサービスを作ってしまうと、どうしてもそれにとらわれてしまい、顧客ニーズを満たすことよりも、自分たちが作った商品・サービスを売ることに力を入れてしまいがちです。

たとえば、石油会社はエネルギーというニーズではなくガソリンという商品にこだわり、鉄道会社は輸送というニーズではなく鉄道というサービスにこだわります。もちろん、それらに莫大な投資をしてノウハウを培ってきたからという事情があるからなのですが、実のところそういった企業側の事情など顧客にとっては何の関係もありません。顧客は、自分のニーズによりマッチした解決策が登場すれば、あっという間にそちらに移ってしまうでしょう。