顧客が満足する商品・サービスづくりとはどんなものか。それにはニーズとウォンツをきっちりと切り分けることが必須だ。上場企業の役員層・部長層など経営人材育成を行なう会社経営者の丹羽亮介さんは「売り手は顧客側の視点に立つことを忘れやすく、つい自社の視点で考えがちだ」という――。

※本稿は、丹羽亮介『マーケティングの大事なところを3時間で学ぶ』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。

マーケティングと顧客視点

マーケティングという言葉は、わかるようでわかりにくい言葉です。市場調査と思う人もいるでしょうし、販売戦略のことを指して使う人もいるかもしれません。もし、「商品を売るための施策全般のことでしょう?」と言う人がいたら、その人に対して皆さんは何と答えますか?

「マーケティング」という言葉のもとになっている「market」という動詞は、「商品を市場に出す」という意味です。「商品を売ること」、あるいは「市場で売れるような宣伝をすること」という意味で使われています。

しかし、ビジネス用語としてのマーケティングを「商品の販売促進をすること」と説明したら、それは完全な間違いと言わざるを得ません。というのも、マーケティングの本質は「商品の販売促進をすること」ではなく、「顧客を満足させること」だからです。そもそも商品が売れるということは、顧客が喜んで買ってくれているからであって、顧客満足のない商品販売はあり得ません。

では、「商品の販売促進をすること」と「顧客を満足させること」は何がどう違うのでしょうか?

これは企業側からの視点か、顧客側からの視点かで根本的に違ってくるのです。ビジネス書をよく読む方は「顧客はドリルが欲しいのではない。穴が欲しいのだ」という言葉をご存じでしょう。

たとえば、ある人がホームセンターにDIY用の電動ドリルを買いに行ったとします。その理由は「ドリルが欲しい」からでしょうか?

深く考えるとそうではないことに気づくはずです。この人の本当の目的は壁や木材に「穴を空ける」ことであって、そのためにドリルが必要だということです。穴を空けられる器具であれば、別にドリルでなくてもよいかもしれませんし、最初から穴が開いている木材があれば、何も必要ないかもしれません。

ドリルで穴を空けられた板
写真=iStock.com/svengine
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