「勘違い」を貫き通した威勢はどこへやら

昨年8月3日の県専門部会では、塩坂委員がツバクロ残土置き場に関する課題について、川勝知事と視察したときと同じ説明をした。

筆者撮影
2023年8月の地質構造・水資源専門部会

塩坂委員は国交省の「深層崩壊推定マップ」「深層崩壊渓流(小地域)レベル評価マップ」を挙げて、南アルプスは、深層崩壊が発生する頻度が「特に高い地域」に区分されているとして、燕沢付近が残土置き場にふさわしくない理由に挙げた。

だが実際には、国交省の「深層崩壊渓流(小地域)レベル評価マップ」では燕沢付近は4ランクのうち、下から2番目の「想定的な危険度のやや低い地域」に区分されていた。

川勝知事らは勘違いをそのまま「ツバクロ残土置き場をやめろ」の理由にしていたに過ぎない。

ツバクロ残土置き場計画の見直しをJR東海に求めるのにはあまりにも無理があった。

それなのに、川勝知事在任中のことし2月5日、静岡県は、リニア問題に関してJR東海との「対話を要する事項」の中に、川勝知事の言い掛かりすべてを入れてしまった

ツバクロ残土置き場を巡っては、土石流の同時多発の可能性等の広域的な複合リスク、対岸の河岸侵食による斜面崩壊の発生リスク、土石流の緩衝地帯としての機能低下などを今後も議論することになっていた。

しかし、9月6日の専門部会では、JR東海が今後リスク管理と対策を示すという「宿題」こそ残されたが、位置選定に何ら疑問は示されず、ツバクロ残土置き場問題は解決してしまった。

知事の顔色ばかり疑う会議は「茶番」

ことし6月、鈴木康友知事は、「山梨県内の調査ボーリングをやめろ」という川勝知事の言い掛かりを、山梨県の長崎幸太郎知事の強い要請を受け入れるかたちで、すべて解決させた。

写真=静岡県提供
2024年夏、ツバクロ残土置き場計画地を視察した鈴木知事

山梨県のリニア工事に続いて、川勝知事のまいた混乱のタネを刈り取った。

川勝知事の時代にはてこでも動かなかったリニア問題がまた一つ簡単に動いたことになる。

とはいえ、専門部会の委員の構成などがほとんど変わっていないにもかかわらず、県のトップが変わっただけで、結論が180度変わるのはいかがなものなのか。

川勝知事の退場で御用学者は役目を失い、数年にわたる議論が一気に「茶番」と化した。

県政最高責任者の知事の「権力」があまりにも大きいことを痛感する。

逆に言えば、もし川勝知事がそのまま知事職に居座っていたならば、リニア問題は何ひとつ解決しなかったかもしれない。

数年にわたり積み重ねてきた会議が「知事の顔色」ばかり伺っていたというのは、静岡県民のひとりとしてはあまりにも悲しい。

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