「既婚のトランスジェンダー」が生まれる理由

そもそも「なんで性別に違和感があるのに、自分は男性ではなくて女性だと自認しているのに、女性と結婚するんだろう?」と考える方も多いのではないでしょうか。

「普通の男性」として女性と結婚し、その後配偶者に「実は自分はトランスジェンダーである」とカミングアウトした、という「既婚トランスジェンダー」は、意外と多く存在しています。

そこには時代性が大きく関係していると考えられます。

ここ数年で驚くほどにLGBTQへの関心が高まっていますが、それまでは決して表立って自分自身の性別への違和感を話せるような雰囲気など、社会にはありませんでした。

性別に違和を感じる人は、ひっそりと誰にも知られずに生きていくか、自分の違和を売りにして、新宿二丁目や歌舞伎町のような夜の街で生きていくか、美容関係の世界で働くくらいしか選択肢がありませんでした。

テレビなどのメディアでタレントとして活躍する人もいますが、それはほんのひと握り。そして、そういった道に進んだ人たちも、決して自ら望んで性別の違和を売り物にする人ばかりではないでしょう。

ゆえに性別に違和を抱えている多くの人は「自分は男性だ、自分は男性なんだ」と思い込んで生きていく道を選ばざるをえなかったのです。

「結婚すればもしかしたらこの違和感が消えるかもしれない」

そう期待して、完全な偽りではなく、相手の女性を好きになって結婚をします。

「自分は女性を好きだから、きっと自分は男性なのだ。男性として生きていくんだ」と決意して。

写真=iStock.com/EKIN KIZILKAYA
※写真はイメージです

結婚当初は夫として平和に日常を送っていても、子どもの誕生、仕事の変化、自分自身の加齢による中年化などのきっかけにより、再び「自分はこのまま男性として生きていていいのだろうか」と違和や不安に襲われるようになります。

そうして年月が経った今、幼い頃には普及していなかったSNSが目覚ましく発達しました。

検索すれば性別違和を感じている人は自分以外にもたくさん存在していることや、年齢を重ねていても性別移行に踏み切っている人が数多くいることを知ります。

時代的にも徐々にLGBTQが知られるようになってきました。テレビや新聞、政治の世界でも取り上げられることが増え、「性の多様化」という新しい世界が訪れたのです。

「自分だけがおかしいのではないか」という悩みから、一気に世の中に認められる世界へと変貌しました。

既婚トランスジェンダーとは、一旦は生まれた時の性別で生きようと決心して結婚し、責任を持って結婚生活を送っていたものの、「性の多様化を尊重する時代」と「結婚生活を送るにつれて再び高まった違和感」が同時に訪れてしまった結果なのだと思います。