家賃滞納の現場で見た「8050問題」の萌芽
関西地方の郊外に立つ駐車場付きの新築賃貸マンション。駅からも徒歩圏内の好立地で、共働きのご夫婦が多く入居しています。近所にはスーパーや広い公園もあり、お子さんを望む若い世代には打ってつけの物件です。
今回紹介する家賃滞納の事例は、この一室を借りる塗装業の男性(38歳)です。約1年前に書かれた入居申込書には、24歳の婚約者の名前が記載されていました。間取りは2DKの46m2で、対面キッチン。ここで料理を作り、一緒に食事をとる、微笑ましい新婚生活の様子が浮かんできます。
家賃は9万2000円。このエリアでは少々高めです。新生活をスタートさせる時は財布の紐も緩むもの。少し無理して借りたのかな、と思いました。なぜなら入居申込書に書かれた男性の年収は280万円、婚約者の欄には職業の記載が無かったからです。共働きなら大丈夫でしょうが、男性の収入だけならこの家賃はかなり高い印象です。
男性は入居の翌々月から家賃を滞納し始めていました。もともと借りる際に初期費用として翌月分も納めているので、最初の支払いから滞ったことになります。
大家は「あまりせっつきたくなくてさ」と語った
普通に考えれば、新生活はワクワクの連続だったでしょう。ところが男性は、最初の半年で家賃1カ月分にも満たない額を納めただけでした。その後は1円も支払われた形跡がありません。1度入金していることから、振込先が分からない訳ではなさそうです。
大家さんは「新婚だからね、あまりせっつきたくなくてさ」と督促に消極的でした。人が良すぎたのでしょうか。本来払ってもらうべき家賃を「払って」とお願いするのは、ストレスのかかる作業です。
ただ放置すればするほど、賃借人に借金を積み重ねさせることになります。本当は入金が確認できなければすぐに督促すべきで、実際にすでに100万円近く滞納額が膨らんでいました。
こうなると人が良すぎると言っていられません。大家さんは「裁判でも何でもいいから、払えないなら出ていってほしい」と、私に依頼をしてきました。
私は訴訟準備のため、この男性宅に内容証明郵便を送りました。すると連帯保証人である男性の父親(70代、元会社員の年金受給者)から「会って話したい」と連絡がありました。私としても滞納者の情報を得られる好機であるため、その申し出を断る理由はありません。
こうして男性宅に、滞納者である男性と両親、私が集まって話をすることになったのです。