配偶者にジェンダー移行を打ち明けるかどうか

とはいえ、配偶者である妻にとっては、今まで夫が「男性」であることは大前提の当たり前だったわけで、まさしく青天の霹靂です。

みかた著、大谷伸久監修『そして夫は、完全な女性になった』(すばる舎)
みかた著、大谷伸久監修『そして夫は、完全な女性になった』(すばる舎)

男性だと思っていた夫に「これからは女性として生きていきたい」とカミングアウトされた時、その状況次第で今後の夫婦の先行きは大きく左右されるのです。

既婚トランスジェンダーが、配偶者にどうやって自身がトランスジェンダーであると打ち明けるかには、いくつかパターンがあります。人それぞれではありますが、大きく分けると、

・まず配偶者に打ち明けてからジェンダークリニックを訪ねる(もしくは自己判断でフライングホルモン)
・誰にも言わずにジェンダークリニックを訪ねる(もしくは自己判断でフライングホルモン)

のどちらかに分かれます。

要するに「性別移行(女性ホルモン剤を体内に入れる)をする前に配偶者に打ち明けるか、打ち明けないか」の違いです。

これは非常に大きな違いで、この最初のきっかけである「配偶者にどう打ち明けたか」で、既婚のトランスジェンダーがその後も離婚することなく配偶者と共に歩んでいけるかどうかに大きく関わってきます。

私が同じ境遇の方と交流してきた経験上、「まず配偶者に打ち明ける」ことをした夫婦のほうが、その後も共に歩むことを選んでいる確率が高いと実感しています。

「夫がトランスジェンダーであると配偶者が知った時には、既に女性ホルモン剤を投薬していた」となると、それは相談とは言えませんからね。

ホルモン剤摂取を始めてしまったら賛成も反対もない

一度ホルモン剤を摂取してしまったら、間違いなくそれまでの状態ではなくなります。配偶者が意見を言いたくても既に事態は動いていて、賛成も反対も口に出しづらい段階になってしまっているのです。

なんでこんな大事なことを配偶者に言わずに始めてしまうのか? と思いますが、当事者にとっては「これは配偶者にも関わってくる大事な問題である」と考えて打ち明ける人と、「大事なことだからこそ、誰にも言えない」とフライングする人とに分かれるわけです。

そして「一事が万事」とも言うように、最初に配偶者に打ち明けなかった当事者は、その後も配偶者の心情を待つこともなく、強引に女性化を進めていく人が多い印象です。

配偶者の心情がついていけるように待つこと、なるべくゆっくりと性別移行を進めていくことが夫婦仲を存続させていくカギなのですが、フライングをしてしまう当事者は、妻の心情を待つことよりも、「一日でも早く女性化したい」思いのほうが勝ってしまいます。

脱毛を心配するアジア人男性
写真=iStock.com/Boyloso
※写真はイメージです

でもそれは当事者側だけが悪いとは限りません。

当事者が事前に配偶者に打ち明けるかどうかは、それまでの夫婦の関係性にかかっているとも言えるからです。

心から信頼し合っている関係を築いていれば、おそらく事前に打ち明ける可能性のほうが高いでしょう。

「夫婦間で起こったことに、どちらか一方だけが悪いということはない」とも言います。

今までの自分たちの夫婦の在り方を、嫌でも振り返らざるをえない環境に置かれることになるのです。

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