「謝れないならこのままでいるしかない」
こうしてA子さん夫婦は別居の状態でひとまず落ち着きました。
今後の方針を打ち合わせるために事務所に来ていただくと、A子さんは夫と長男のLINEを見せてくれました。夫は「母さんに帰ってくるようにお前から言ってほしい」と言っていて、長男にそれなら謝るようにと言われると、「男が頭を下げることなんてできない」「俺が養っていたんだから多少やりすぎても母さんは我慢すべきだった」という返事をしていました。
A子さんは、「別居することで夫がつらい気持ちをわかってくれればと思っていたのですが、謝れないならこのままでいるしかないですね……」とおっしゃいました。
離婚を進めるかどうかA子さんに考えてもらったところ、A子さんは悩んだ末、「息子のためにも夫と縁は切らず、このまま別居生活を続けようと思う」とおっしゃしました。パートを始め、今後のことを考えながら暮らすそうです。
増えてきた「役職定年離婚」
2020年ごろから、「役職定年で夫の給料が下がったことをきっかけに夫婦仲が悪くなった」という相談をよく聞くようになりました。今回は妻からの相談ですが、夫からの相談もあります。
離婚に占める「熟年離婚」(同居期間が20年以上)の割合は上がっており、厚生労働省の人口動態統計によると、2022年の熟年離婚の割合は過去最高の23.5%に上っています。
熟年離婚といえば、「夫の定年退職によって毎日家で顔を合わせるのが耐えられないから離婚する」というイメージが強いと思います。しかし、最近は、それより前の役職定年をきっかけに離婚を考える人が増えているのです。
突然リストラされる場合とは違い、役職定年は会社の制度としてあらかじめ周知されているものです。それでも、実際に給料が下がることのインパクトは大きく、ここをうまく乗り越えられない家庭が出てきてしまうようです。
原因としてまず考えられるのは、現実的なライフスタイルを考えてこなかったということです。
役職定年が視野に入ってくる50代の人は、いわゆるバブル世代です。その親の世代は、ローンで家を購入して、年功序列で定年まで給料は上がり続けるので貯蓄もできて、退職金でローンを返しても退職金の残りと年金で悠々自適に暮らしてきていた人たちです。
自分たちの老後も同じような暮らしになると考えていたところに役職定年で給料が下がると、「こんなはずではなかった」と慌ててしまいます。そしてあまり気にしていなかった貯蓄の額を確認して、思ったより貯まっていないことに驚き、夫婦でどちらのせいなのかとけんかが始まってしまう……。そんなケースが少なくありません。