厚生労働省の統計によると、2022年の離婚における、同居期間が20年以上だった「熟年離婚」の割合が過去最高に上った。離婚や男女問題に詳しく、著書に『モラハラ夫と食洗機』がある弁護士の堀井亜生さんは「『熟年離婚』というと定年退職をきっかけに離婚するというイメージが強いが、最近では定年退職より前の役職定年をきっかけに離婚を考えるケースが増えている」という――。
※本原稿で挙げる事例は、実際にあった事例を守秘義務とプライバシーに配慮して修正したものです。
妻を責める夫
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです

役職定年後の給与明細に驚き

専業主婦のA子さん(50歳)は、大手メーカーに管理職として勤める夫(55歳)と、大学生の長男(22歳)と暮らしていました。夫はいわゆる昔ながらの会社員で、接待の飲み会やゴルフで家を空けることが多く、家のことは妻に任せきり。A子さんは夫から渡される生活費をやりくりして家事と育児をこなしてきました。

夫は65歳で定年退職の予定ですが、それより前に役職定年を迎えました。役職定年とは、一定の年齢に達した社員を管理職のポストから退かせて、一般職などの待遇に変更する制度です。

A子さんも夫も、勤務先にそういう制度があることは理解していたものの、いざ役職手当がなくなった給与明細を見て驚きました。月収がそれまでのほぼ半分になっていたのです。

夫は「こんなに減るなら老後どうしたらいいんだ」と慌てました。そして今まで見ようともしてこなかった家計の通帳をA子さんに出させて、「全然金が貯まっていないじゃないか。今まで何をやってたんだ」と怒り出したのです。

生活費は夫に渡された金額でやりくりしていましたし、それ以外も住宅ローンの返済や長男の学費、夫の両親の医療費の援助等に使っていて、思ったよりは貯まっていません。A子さんは「給料はかなり減ったけれど、長男ももうすぐ就職だし、つつましく暮らせばやっていけない金額ではないから……」と言ったのですが、夫は聞きません。「俺は一生懸命働いてきたのにお前の無駄遣いのせいで貯金ができなかった。これからは自分が家計を管理する」と言い出しました。